「ただ凶器で殴り合ってるだけじゃない」

「ベルトを巻いて、それを落とすまでは七番勝負のことは言い出しませんでした。通常ルールのプロレスがしっかりできると自信を持てるまでは、と。普通のプロレスがちゃんとできなければデスマッチやハードコアはできないと思ってます。普通のプロレスができないからやってるんじゃないんです。ただ凶器で殴り合ってるだけじゃない」

　しかしなぜ、男子選手相手なのか。女子にもハードコアマッチができる選手はいるのだが。

「私が最初に見て憧れたのが男子のプロレスだったからです。ファンとして憧れた人たちと試合がしたいっていうのは、レスラーならみんな考えますよね。私の場合はそれが男子だったんです。それに不可能を可能にしたいという気持ちもあります。女子が男子と闘っても勝てるわけがないと思う人が100（%）じゃないですか。それを覆したいです。未知の領域に突っ込んでいきたいという好奇心もありますね」

　七番勝負の初戦で闘ったのは宮本裕向。2戦目に佐々木貴と対戦した。凶器として持ち込んだのは名前にちなんでバケツいっぱいの鈴。リングに撒き散らした上で技をかけると、爽やかな音がするのに大ダメージという独自の空間が生まれる。どんな凶器を持ち込もうか、どんな攻撃をすれば効果的か。考えるだけでワクワクした。竹田戦を終え、鏡で頭部の傷を見たら今度はゾクゾクした。かつて憧れた世界に自分はいるのだ。

「胸張ってプロレスやれ、堂々とデスマッチやれ」

　4戦目は5月5日の横浜大会。“デスマッチのカリスマ”葛西純との試合だった。前回は未成年が流血戦なんてと批判されたが、都合のいいことにこどもの日だ。こどもの私が主役になるとすずは燃えていた。

葛西戦での鈴季　（写真をクリックすると「この記事の写真」にとびます。流血等の過激な写真を含みますので、ご注意ください）

　実際、試合内容はハードコアの経験を重ねるごとによくなっている。葛西にはタッカーを尻に打ち込んで「こいつキ○○イだ！」と叫ばせた。

　もちろん、葛西の攻撃はそれ以上だった。竹串の束を頭に突き刺すと口にもねじ込む。竹串攻撃をやり返したすずだがロープに立てかけたラダーにパワーボムで投げつけられた。フィニッシュはラダーからのボディプレス「パールハーバー・スプラッシュ」。葛西純は人間じゃない、怪物だったと試合後のすずは言った。だがこの試合がターニングポイントになったのも確かだった。葛西は試合後「ネットが炎上したらしいけど気にすんな」と声をかけた。

「やりたくもない仕事をやって人生終わる人間も多い中で、お前は好きなことやって生きてるんだろ。それだけでお前は勝ち組なんだよ。胸張ってプロレスやれ、堂々とデスマッチやれ」

（写真をクリックすると「この記事の写真」にとびます。流血等の過激な写真を含みますので、ご注意ください）

　気にするべきは負けたという事実、つまりは実力だけだとも。若いからと言ってマイナスではないし、それは歳を取ることも同じだ。

「鈴季すずは俺っちのことを父親より歳上と言ってたけど、葛西純にとっての年齢ってのは“レベル”だから。俺っちは9月9日でレベル47になる。向こうも毎年レベルが上がるんだろうが、こればっかりは一生追いつかせねえぞ（笑）。鈴季すずの可能性？ それがどこにあるのか今わかったら苦労しねえよ。まだ分からないからこそ可能性は無限大なんじゃねえのか」

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