濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「いつか、傷だらけの背中でウェディングドレスを」 18歳の女子レスラー・鈴季すずが大流血を「嬉しい」と語る理由
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/05/12 11:00
ハードコア七番勝負、第4戦。“デスマッチのカリスマ”葛西純とも渡り合った鈴季すず
「なんとかして勝たなきゃ、それくらい強かった」
さらにその4日後、5月9日の川口大会では木高イサミと七番勝負第5戦。変形サムソンクラッチ(丸め込み)で意表を突く3カウントを奪ったイサミは、試合後にこう語っている。
「本当はラダーから飛んで3つ取りたかったんですけど、なんとしても勝たなきゃと。それくらい(すずは)強かったですよ。レスリング(通常ルールの闘い)は強い。地力があるんだろうなと」
勝ち星だけでなく、アイディアや気迫でも負けたくなかったとイサミ。すずが持ち込んだ自転車を奪いリング上で突進、かわされて自爆するところまで含めて観客の目を釘付けにした。イサミはイサミで、単なる相手役に甘んじる気はなかったのだ。アイスリボン参戦は、ふだん自分を見ていない観客にアピールするチャンスでもあった。
ここまでの七番勝負、対戦相手の“一流ぶり”も印象的だ。女子が相手だからとナメたところを見せず、同時に懐が深く、それぞれの個性をしっかりとアウェーのリングに刻んでいく。おそらく彼らに“男子vs女子”という考えはない。あるのは“デスマッチのトップvs新人”ということだけだ。
だからこそ、すずの奮闘も足りないところも目立つ。イサミ戦では自転車ではね飛ばし、ラダー上から超高角度のブレーンバスター。しかし大番狂わせを成し遂げるには、あと一歩及ばない。
一人前になるためには「たくさん血を流すしかない」
考えてみれば当たり前の話だ。そう簡単に勝てないからこそトップファイターなのだ。竹田はすずの試合ぶりについて「流血した時に息が上がって目が泳いでた」と指摘する。それを克服するには「たくさん血を流すしかない」。今は勝ち負け以前に、デスマッチファイターとして一人前になるための経験を積む時期なのだろう。
ただ、すず自身は勝つことを諦めていない。「勝てるわけがないけどやることに意味がある」では、それこそファンがついてこない。男子に勝つためにはどうすればいいのか、考え続けることも七番勝負のテーマだ。
4月24日に竹田誠志、5月5日に葛西純、9日に木高イサミ。これだけのハイペースでこのレベルの強豪デスマッチファイターたちとシングルマッチができる機会は、男子選手でもそうはない。大日本プロレスのリーグ戦「一騎当千」デスマッチ部門くらいか。親からも団体からもやりたいことをやらせてもらっているからこそ結果を出したいのだと、母の日のイサミ戦を終えたすずは言った。竹田戦の後には、母親から「いい流血だった! あんたは最高の娘だ」とLINEがきたそうだ。