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【引退】五郎丸歩と過ごした不思議なトゥーロンの夜…語り合ったジャパン、早稲田、ラグビーのこと「飲むの遠慮しないでくださいよ」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byItaru Chiba
posted2021/04/26 17:01
喧騒から逃れ、語り合ったトゥーロンの夜。五郎さんはあの晩に何を語っていたのか
日本のラグビーに思いを馳せつつも、トゥーロンは五郎さんが落ちついた時間を過ごせる場所になっていた。
「トゥーロンには、僕のほかに日本人の方はほとんどいません。10人いないです」
トゥーロンで車を走らせていると声を掛けてくるファンはいるが、日本のような騒ぎからは逃れることが出来た。
家族との普通の生活が戻っていた。
欧米では「サバティカル」という言葉、発想がある。長期休暇をとって、仕事、生活をリフレッシュするという考え方だ。
たとえば、オールブラックスのレジェンドで、神戸製鋼でも活躍したダン・カーターは、2013年のオフに半年間ラグビーから離れ、それが新たなエネルギーの源泉になったと自伝で触れている。
ラグビーばかりではない。研究職などでも広く取り入れられている考え方だ。日本の労働界にはそうした発想はないが、五郎さんはフランスに身を置くことで、精神的なサバティカルを取っていたと思う。
選手としての五郎丸歩を振り返る時、このフランスでの日々は彼のメンタリティに大きく影響を及ぼしたと考える。
なぜなら、この夜の五郎さんは、とてもリラックスしていたからだ。W杯以後の取材では感じられなかった柔らかな気配が漂っていて、話をするのが心地よかった。
プロプレーヤーである五郎さんはお酒を飲まなかったが、「生島さん、飲むの遠慮しないでくださいよ。ここはフランスなんですから」とワインを勧めてくれた。