濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
アジャコング「いいですかやっちゃって」 取締役レスラー・藤本つかさが“被災地”凱旋興行に涙しそうになった理由
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/04/22 17:00
アイスリボン取締役でもある藤本つかさ(中央)の凱旋興行は彼女の成人式会場でもある宮城県利府町の会場で行われた
飛翔天女”豊田真奈美の姿も
それぞれがきっちり見せ場を作って、フィニッシュは藤本がハム子から3カウント。雪妃戦と同じく、最大の必殺技であるジャパニーズオーシャン・サイクロンを決めた。会場には、この技の開発者であり藤本を後継者に指名した“飛翔天女”豊田真奈美もいた。
だから当然のフィニッシュと言えるのだが、忘れてはいけないのは相手が重量級チームだということ。サイクロンは肩車の要領で相手を担ぎ上げる技だから、重い相手にはなかなか決まらない。しかも藤本は“正調バージョン”としてリング中央でかけることにこだわった。ロープやコーナーを支えにしないのだ。
最初は失敗した。鮮やかな流れとは言い難かった。けれどもしつこくトライしてとうとう決めた。ここでも藤本は、諦めない姿を故郷の人たちに見せたのだった。
リングに上がる瞬間、感極まって涙がこぼれそうに
「今、コロナだったり地震だったり、誰もが不安な毎日を過ごしていると思います。今日の闘いを見て、明日から頑張ろう、やられてもやられても立ち上がろうと思ってもらえたら。今日の試合は、おこがましいですけど生きるパワーを伝えたかったんです」
アジャは35年のキャリアの中で、初めて利府町を訪れたのだと語った。
「35年やっても、まだまだ新鮮なことがありますね。プロレスを初めて見る方もたくさんいたそうなので、開拓しがいがあるなと。また戻ってきてもいいですか」
すべてが温かい。地方興行、凱旋興行ならではの雰囲気。本当にたくさんのことを乗り越えて、この温かさに触れることができたのだ。リングに上がる瞬間、感極まった藤本の目からは涙がこぼれそうになっていた。リングアナの千春ももらい泣きしそうになって「これはまずい」と思ったそうだ。けれど試合が始まったら楽しくて仕方なかったと藤本。試合後はひたすら笑顔だった。同時に、開催できたことがゴールだとは思えなくなった。
「震災からまだ10年、復興にも程遠いですから。これからもプロレスを通して復興支援がしたいです。まだまだプロレスを広めたいし、コロナが収束して、すべてが安心してできるようになったらまた利府町で。それまでベルト守らないと(笑)」