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「ライバルなんて思ったことは…でも」 鳥栖の39歳・金明輝監督が持つ阿部勇樹らへの敬意と“指導者のプライド”
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph bySAGAN TOSU
posted2021/04/06 17:01
金監督の熱い指導で、サガン鳥栖はさらなる飛躍を果たせるか
このスタイルでタイトルを1つでも獲れたら
――いや、中野伸哉選手もいいクロスを上げるじゃないですか。
「まあ、そうですね(笑)。よその畑は良く見えるのかな。外国人選手には特別なパワーや強さ、スピードをもたらしてほしいと思います。ただ、外国人選手のすべてがヒットするわけでもない。日本人選手だからこそ献身性を発揮してくれたり、戦術的なゲーム運びができる面もあるので、その辺のバランスをうまく取りたいと思います。だから、不安もありますよ」
――ミョンヒさんが今、トップチームで展開されているサッカーは、「サガン鳥栖モデル」としてクラブが目指すべきスタイルになるものだという自負はありますか?
「どうだろう……僕自身アカデミーで指導していたときに、『サガン鳥栖はこういうサッカーだ』と定まっていないと、アカデミーでもどういう選手を発掘し、どういう選手に育てればいいのか分からないと感じて。トップチームの監督がコロコロ変わって、スタイルが大きく変わると、育成も難しい。なので、少なくともアカデミーは一貫したフィロソフィを持とうと。そこでアヤックスとも提携したわけです。
こうした流れのなかで僕がトップチームを率いることになって、クラブとして大事にしているものをベースにしながら、アカデミーの選手を積極的に起用し、今いる選手たちの長所も出しながら、『サガン鳥栖はこういうチームだよ』と、イメージしやすくなってきたとは思います。ただ、10年後、20年後どうなっているかは分からない。今はクラブ自体の転換期で、社長も変わって、いろんなものをリスタートしている状況。僕がどうこう言える立場ではないですが、このスタイルでタイトルをひとつでも獲れたら、これをサガン鳥栖のモデルに、ということになるかもしれないですし、今は模索している段階だと思います」
同い年の阿部、寿人と勇人に思うこと
――3月6日の浦和戦では同い年でジェフ市原時代のチームメイトだった阿部勇樹選手と対戦しました。さらに昨年引退された佐藤寿人さん、現在ジェフでクラブオフィサーを務める佐藤勇人さんとも同い年でプロ1、2年目に切磋琢磨された仲です。彼らに対するライバル意識はありますか?
「いや、ライバルなんて思ったことがないです。僕は31歳まで現役をやりましたけど、彼らは最近まで現役で、阿部は今年40歳だけど、まだやっている。凄い選手たちと一緒にやっていたんだなって、改めて感じます。同期というだけで、プレーヤーとしては足元にも及ばなかった。劣等感はすごくありますよ。ただ、早く引退したぶん、指導者としての勉強をさせてもらって。正直、トップの監督になるとは思ってもいませんでした。
選手として実績のない自分が、スクールのコーチを務めさせてもらえるだけでも幸せだなという思いで1年1年、任された立場でしっかりとやっていたら、ひょんなタイミングで残り5試合だけトップチームの監督をやることになって。その時点で最下位、J1に残るのは難しいと。『落ちても俺のせいじゃないやろ』と半ば開き直って引き受けたら奇跡的に残留できて。そこからですね、トップチームの責任の重さを感じながら、今に至っています」