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「お父さんが怖いので…」東海大菅生の“劇的サヨナラ男” 二塁打なのにゲームセット後も三塁~ホームまで走り続けた【センバツ】
posted2021/03/27 19:00
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
KYODO
この日のヒーローは、ゲームセット後も、1人だけ「試合」を続行した。
9回裏、3−4とリードを奪われていた東海大菅生は、連続四死球で2アウト満塁のチャンスをつくる。監督の若林弘泰は、7番打者に続いて、8番打者にも代打を送った。投手兼代打の背番号「18」の多井耶雲(おおい・やくも)だ。
多井は、背番号通り、「18番目」の選手だった。若林が話す。
「多井はバッティングの調子も非常によかったし、ピッチャーとしても使える。それで最後の最後、滑り込みでメンバー入りした。なので、その運も加味して送りました」
多井が代打策の舞台裏を明かす。
「いきなり告げられました。本当に急だったので、慌てて準備をしました。緊張感はありましたけど、打席に入ったら自分のモードに入りました」
「お父さんが怖いので……」
若林が買っているのもこの精神力だった。
「経験はないんですど、気持ちが強い子。正直、まだまだのところもあるんですけど、それを上回る気持ちがある。普段、ノックではファーストを守っているんですけど、動きが鈍臭いので、かなり追い込むんです。でも気持ちを全面に出して向かってくる。僕は日頃から『陰』の選手はダメと言っているんです。ユニフォームを着たら『陽』に変わりなさい、って。でも彼はユニフォームを着ているときも、脱いでるときも『陽』の子。いつも明るいんです」
多井は精神面が鍛えられた背景を冗談っぽくこう語った。