バレーボールPRESSBACK NUMBER
中学生で日本代表、狩野舞子は“期待の美少女エース”のころをなぜ「暗黒時代」と呼ぶのか【衝撃の“春高ポスター事件”】
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byShigeki Yamamoto
posted2021/03/25 11:04
笑顔が絶えないインタビューだったが、狩野自ら「暗黒」と語るほど若手時代は塞ぎ込んでいたという
「何で私がここにいるの?」
常に過大評価がつきまとう。「期待」と受け取れば何ともありがたいことではあるが、狩野の性格はそれほどポジティブではなかったという。
「そもそも中学生の時に初めて代表合宿に参加した時も、すぐに外されると思っていたんです。それが18名から15名になってもまだ残っていた。実力不足は自分が一番よくわかっているし、場違い感しかないのに、何で私ここにいるの? って。結局脚のケガで(最終メンバーから)外れて、ホッとしたんですけど学校に戻れば“日本代表の狩野舞子”って色眼鏡で見られる。名前ばかり独り歩きするのが、すごく嫌だし、怖かったです」
日本代表なのだからこれぐらいできるはず。体育館では嫉妬も含めた視線が集まり、たまの休みに出かければ「あの子、バレーの子だよね」と指を差されるので唯一息をつけるのは実家に戻った時ぐらい。気づけばいつも人目ばかりを気にするようになった。
でっかい身体を小さく折り曲げて
高校卒業後も、姉の美雪が在籍した久光製薬(現・久光)スプリングスに入団したが、試合に出ずともカメラで追われる生活は変わらず、気になるのは自分のプレー内容よりも周囲の目線。望んだわけではなくとも、自分ばかりが取り上げられることで周囲からは「舞子はいいよね」と言われる始末。それならまだマシで、時には何もしなくても「調子に乗っている」と陰口を叩かれることもあった。
さらに言えばケガが多い狩野は、念入りにストレッチやダウンに時間をかけなければならない。しかし試合終了後のコートに長く滞在するとカメラに囲まれる時間が増えるため、避けるように早々に切り上げる。
そうなれば当然、ケガにつながり、悪循環を招く。
「とにかく目立ちたくなかったから、でっかい身体を小さく見えるように折り曲げて(笑)、ファンサービスもしたいけれどやれば“調子に乗っている”と言われるから塩対応もいいところで。当時の先輩と、あの頃の話をするたびに言われるんですよ。『舞子、負のオーラしか出ていなかったよね』って」
未来のために、華やかなバレーボール界、バレーボール選手の代表としてポスターの「顔」に抜擢される。だが、現実は輝かしい日々とは程遠い、猫背になるほど「目立たぬように」とうつむいた狩野の姿があった。