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「まさかプロ野球選手になるとは…」22歳山本由伸が“オリックスのエース”になるまでの「知られざる少年時代」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph bySankei Shimbun
posted2021/04/28 11:02
高3秋のドラフトで、オリックスに4位で指名された山本由伸
そんな噂を耳にし、野球雑誌に取り上げられている姿を見ても、鈴木は半信半疑だった。山本は備前に帰省するたび、鈴木の店にグラブのメンテナンスにやってきたが、華奢な印象はあまり変わらなかったからだ。
「僕の話を『おー!』って言いながら興味津々に聞いている、グラブ好きの少年、というイメージしかなかった」と苦笑する。
しかし「まさか」が現実になる。高3秋のドラフトで、山本はオリックスに4位で指名されたのだ。
初対面は「漁師町のにいちゃん、という感じ」
その時、鈴木は山本のプロ生活を案じて、『Ip select』のアドバイザーを務めている身体の専門家、キネティックフォーラムの矢田修を紹介した。
矢田は、初対面の山本の印象をこう振り返る。
「漁師町のにいちゃん、という感じ。純朴。落ち着きとあどけなさの中に、やんちゃなところが顔をのぞかせる少年でした」
身体や投げ方を把握した上で、山本の目指す高い理想を聞いた矢田はこう言った。
「寝る間を惜しんでトレーニングをしたとしても、今の投げ方の延長線でそこには行かれへんよ。そこに行くためにはフルモデルチェンジが必要ですよ」
すると山本は、「じゃあ、そうします」と即答した。
「力を入れずに、すごく速い球を」
矢田のトレーニングは基礎を重視し、正しく立つところから始まる。今ではジャベリックスローやブリッジ、倒立など、山本の練習法の動画が広まっているが、それはほんの一部に過ぎない。山本が取り組んでいる、身体の「内」を整える「BCエクササイズ」は400以上もの種類があり、ほとんどが地味なトレーニングだ。それを山本は黙々と、根気強く継続してきた。