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「もし当たれば死ぬ」と打者に思わせた沢村栄治の“絶頂期”と田中将大「24勝0敗」シーズンの成績を比べたら
text by
太田俊明Toshiaki Ota
photograph byDigital Mix Company.
posted2021/03/21 17:02
沢村栄治は巨人軍のエースとして束となって襲い掛かるタイガースのエースたちとたった1人で勝負した
巨人・タイガース戦の天下分け目の一戦には立ち見客も
翌日の第2戦、巨人が勝てば首位が入れ替わり、タイガースが勝てば再び突き放して優勝に大きく近づく大1番は、タイガースを相手に2度の無安打無得点試合を達成している日本一の投手・沢村栄治と、常勝石本秀一が打倒沢村を掲げて鍛えに鍛えてきたダイナマイト打線が激突した初期職業野球の白眉といえる試合になった。
人気の巨人・タイガース戦、しかも勝った方が首位という天下分け目の一戦とあって、洲崎球場は開場以来最高となる大観衆で埋まった。内野席はびっしりと満員で、最後列には立ち見の客が並んだ。
タイガースの先発は、予想通り西村幸生だった。宇治山田出身の同郷のライバルで、全球団がスカウトに走った前年の大学ナンバーワン投手だ。
午後1時に始まった試合は、栄治の快速球、西村の投球術ががっぷり4つに組んだハイレベルな投手戦となり、4回まで互いに0が並んだ。
栄治を倒すべく束になったタイガースのエースたち
5回表、巨人は先頭の7番筒井がライトオーバーの二塁打で出塁。続く8番内堀の三塁前バントが内野安打になって無死一、三塁と初めてチャンスを迎えた。
この場面でベンチを出たタイガースの石本監督は、好投していた西村を諦め、ライトを守っていた景浦をリリーフに送った。
ライトの守備位置からのっしのっしとマウンドに上がった景浦は、既定の投球練習8球を投げただけで、9番の栄治の内角にいきなりシュート気味の豪速球を投げ込み、振り遅れのサードゴロに打ち取った。
続く1番呉も球威に押されたセカンドゴロで三塁ランナーの筒井は動けず、2番水原もレフトフライに打ち取られて、巨人は絶好の先制のチャンスをタイガースの継投に封じられてしまった。
ここからは、栄治の快速球と、景浦の剛速球との投手戦になった。巨人が栄治1人に試合の帰趨を託しているのに対して、タイガースは西村から景浦、リードを奪えば若林とエース3人が束になって栄治を倒す総力戦を挑んできたのだ。
栄治は、1人黙々と投げ続ける。この日はセンターからホームに向かって強い風が吹いていて、その風に乗って栄治の超速球は更に勢いを増し、タイガースをヒット2本とほぼ完璧に抑え込んでいく。一方の景浦もトルネード気味のフォームから投じる剛速球で一歩も譲らず、試合は0対0のまま延長戦に突入した。