「いやいや（笑）。そこまで大それたことはまだ全然考えられていないですね。とりあえずいまは指導者として頑張っていきたい」

――今季ジュビロ磐田のトップチームのコーチには、中山さんが就任。中山、高原、前田と三代目とも言われているので、なにか縁を感じませんか？

「自分をそこへ入れてもらってもいいんですかね？（笑）　得点王をとったときのスピーチで『中山さん、タカさんと肩を並べられるようになりたい』と話しましたけど、結局並べなかったと思っています。得点数とか、日本代表とか、ワールドカップとか、リーグ優勝とか……全然だめだったから」

中山雅史（右端）らに祝福される磐田時代（2006年）の前田遼一　©JIJI PRESS

履き続けたアディダス「コパ・ムンディアル」

――色んなことがあった現役時代でしたが、そのキャリアは指導者としてどう生かせると思いますか？

「どんなことにも後悔はつきものだと思いますが、子どもたちが『力を尽くせた』と思えるような環境を作ってあげられたらと思います。プロサッカー選手として色んな経験をさせてもらいましたが、今はどう指導に生かせるのか全然想像がつかないですけどね（笑）」

　カラフルで高性能をうたうシューズがあふれるなか、前田遼一が履き続けたのが、アディダスのコパ・ムンディアルだ。真っ黒のボディに白い3ライン。1982年に生まれたサッカーシューズの大定番かつ名品だが、今やJリーガーでそれを履く選手はほとんどいない（2015年当時、履いているJリーガーは前田遼一だけだったと言われている）。

　プロ選手には新商品を使ってほしいというのは、メーカーなら当然の想いだが、前田だけは特例で30年以上前の靴を用意してもらっていたという。ここ数年は28.5センチという大きなサイズを使っていた前田のために、アディダスの担当者は常に十数足のストックを用意していたとも聞いた。

　チームのサッカーに応じることで成長という変化を遂げてきた、前田の足元を普遍の黒いシューズが支えていたのだ。指導者という新世界へも黒いシューズが導いてくれる。

（【前回を読む】史上初の2年連続得点王　前田遼一39歳が語る“引退決断”と“ストライカー人生”「ジュビロにいたからこそ、FWになれた」　へ）