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日本ハムか、ヤクルトか… 開幕投手・ライアン小川に残留を決断させた『青天を衝け』渋沢栄一の言葉
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byKyodo News
posted2021/03/02 11:01
ヤクルトの開幕投手に決まった小川泰弘は最後の最後まで日本ハム移籍かヤクルト残留かを決めきれずにいた
小川が渋沢栄一の著書を読む理由
渋沢栄一は、この2月からスタートした吉沢亮主演のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公だ。3年後には福沢諭吉に代わって1万円札の「顔」となることも決まっており、その理念やリーダー論、人生哲学にあらためて注目が集まっている。
小川は、今キャンプでは渋沢栄一に関する別の書籍『渋沢栄一「生き方」を磨く』を読み進めていたという。
「人としてどう生きるか、どういう態度で人と接するか、結果だけでなく過程を大事にしていくことの大切さなど、ヒントになることが沢山あります。自分は今野球をしていますが、経営や、経済活動という部分も理解することでバランスもとれると思っています」
決断を経て残留したチームで、投手陣のリーダーとして果たすべき役割ははっきりと自覚している。まずは「結果」だ。2年連続最下位に沈んだヤクルトの弱点は1にも2にも投手陣。小川自身も、昨季こそ2桁勝利(10勝8敗)を挙げノーヒットノーランを達成するなど活躍したが、防御率4.61は自己ワーストと課題も残した。
「どんなに相手が年下でも常に敬う心を」
今キャンプでは、セットポジションでのフォームの改良や決め球の精度をあげることに加え、昨季までの配球を徹底的に見直し、効果的な変化球の使い方を再構築するなど様々なことに取り組んできた。2度目の実戦登板となった2月26日、楽天との練習試合では2回1安打無失点と好投。走者を背負った場面での新フォームにも手応えを得た。
キャンプ打ち上げの際には、全選手、スタッフの輪の中に立って挨拶し、手締めの音頭をとった。若い投手の手本として、精神面の支柱としての役割も自覚している。
「チームを背負っていきたい。石川(雅規)さんもいるけれど、ピッチャーを自分が引っ張らないといけないと思う。できる範囲で後輩にも色々アドバイスしたいし、そういう時にはどんなに相手が年下でも常に敬う心を忘れずにいたい。自分も刺激を受けて、成長していきたいです」
自覚も新たに挑む9年目のシーズンへ、小川の決意はまさにこの言葉だろう。渋沢栄一が詠んだという漢詩「勢衝青天攘臂躋 気穿白雲唾手征」(青空をつきさす勢いで肘をまくって登り、白雲をつきぬける気力で手に唾して進む)からとったという、大河ドラマのタイトル。
「青天を衝け」、と。