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日本ハムか、ヤクルトか… 開幕投手・ライアン小川に残留を決断させた『青天を衝け』渋沢栄一の言葉
posted2021/03/02 11:01
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph by
Kyodo News
「本当に本当に迷って……最後の最後まで決まらなかったんです」
今だからこそ、笑って明かせる本音だろう。小川泰弘投手は、今年も見慣れたスワローズのユニフォームに身を包み、沖縄・浦添キャンプで鍛錬の汗を流した。プロ9年目。本拠地・神宮球場で迎える3月26日、阪神との開幕戦で、自身5度目となる大役をつとめることが決まった。
昨年末、人生の岐路に立った。手にした国内フリーエージェント(FA)権を行使することを決めた。新天地に挑戦するか、愛着あるチームに残るか――。先発投手が不足していた日本ハムが、小川の獲得に乗り出していた。
元よりチャレンジ精神旺盛で、困難に挑むことを力に変えるタイプ。一方で、体格のハンディがあってもドラフト2位で指名しエースに育ててくれたヤクルトへの恩義や愛着は深かった。
気持ちは揺らぐ。決められない。答えを出すリミットがすぐそこに迫る。
「自分のなかでスッと(結論が)落ちる時が来るから、と周りは言ってくれるんですが、なかなか落ちてこない。その時、この本をもう一回読んでみよう、と手にとったんです」
日本ハム・栗山監督の愛読書が背中を押してくれた
『論語と算盤』。近代日本経済の父といわれる実業家・渋沢栄一の著書だ。
「正につき邪に遠ざかるの道」
意志決定の局面で正しい選択をするために、何を大切にするかを説いたこの章を開いた時、頭のなかが明瞭になったという。
「自分の良心に従って、大事な人のことを思い浮かべて心を決めれば大丈夫だ、と。自分の家族や、地元の人たちのことを思い浮かべながら自分自身に問いかけていると、まさにスッと落ちてくるものがありました」
実はこの『論語と算盤』は日本ハム・栗山英樹監督の愛読書で、毎年新入団選手に1人1人プレゼントするというものだ。小川はこのエピソードを聞いたことをきっかけに3、4年前に購入し、自身の指南書として繰り返し読み込んでいた。日本ハムにとってはちょっぴり皮肉なインスピレーションとなってしまったが、かくして小川は12月25日のクリスマスにヤクルト残留を発表し、新たに4年契約を結んだのだった。