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長瀬智也とリンクする『俺の家の話』 「介護×プロレス×伝統芸能」が“ただのコメディドラマ”ではない理由
text by
木俣冬Fuyu Kimata
photograph byドラマ『俺の家の話』(公式サイトより)
posted2021/02/26 17:01
宮藤官九郎脚本・長瀬智也主演で現在放送中の『俺の家の話』(TBS系 金曜よる10時~)
例えば、新型コロナウイルス感染拡大による東京五輪の延期は、この檜舞台に体力と能力のピークをもって来るように綿密に計算してトレーニングしてきたアスリートに大きな衝撃を与えた。2020年ならやれたことが2021年ではどうなるかわからない。アスリートの身体はデリケートだ。だからこそ、自分の状態を確実に見極めて、引退する者には、涙の拍手が贈られる。イチローの引退会見は誰もが固唾を呑んで見守った。
そうかと思えば、どれだけ現役を続けられるか挑み続ける三浦知良のような人物は憧れの的だ。去る者も、残る者も、身体のみならず精神の面においても自分の限界を怜悧に見極める者こそが覇者なのだ。
『俺の家の話』の寿一は、親の介護をきっかけに一度はプロレスの世界を去るが、わけあって、再び覆面レスラー・スーパー世阿弥マシンとしてリングに立ちはじめる。体幹を鍛える能の修業が奇しくもプロレスに役立って大活躍するという、カンフー映画のような展開もあった。
第3話に登場した武藤が2月12日、58歳にして、プロレスリング・ノアのGHCヘビー級のチャンピオンになり、ノアに入団したことも重って見えた。58歳だって現役が可能なのだから、40代の寿一だってまだまだやれるはずだ。
道に迷う者は寿一だけではない
引退するか、現役を続けるか、道に迷う者は寿一だけではない。介護状態になった父・寿三郎もまた然り。人間国宝にまで上り詰めた寿三郎は脳梗塞で倒れたことをきっかけにカラダが弱り始め要介護状態になってしまう。だが、彼は長男・寿一に宗家を継がせることにしたものの、エンディングノートには「もう一度舞台に立ちたい」と記す。
認知症になっても寿三郎は、幼い頃から身体に叩き込んできた能のことは忘れないし、ふだんはぼんやりしていても、息子や孫の能の稽古のときはキリッとした顔になる。第5話では、家族旅行に行くために血糖値、血圧、体重を理想の数値に近づけようと、ボクサーの映画『ロッキー3』の「アイ・オブ・ザ・タイガー」をBGMに、スクワットしたり歩行器を使って川べりを歩いたりする情景も描かれ、ぐんぐん体力があがり、晴れて目標の数値に到達した。この調子で、老いて要介護とされた者がリハビリのすえ、再び舞台に返り咲くという感動のエピソードが描かれる展開も期待したい。