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長瀬智也とリンクする『俺の家の話』 「介護×プロレス×伝統芸能」が“ただのコメディドラマ”ではない理由
text by
木俣冬Fuyu Kimata
photograph byドラマ『俺の家の話』(公式サイトより)
posted2021/02/26 17:01
宮藤官九郎脚本・長瀬智也主演で現在放送中の『俺の家の話』(TBS系 金曜よる10時~)
ホームドラマと見せかけて「自分の道を考える物語」である
25年もの長い確執があった2人だが、能一筋で家族を顧みない父と息子の唯一の交流はテレビでプロレスを見ることだった。「反則しても血が流れてもなんか節度があって品があっていい」と寿三郎のプロレスを評する場面も登場し(第1話)、そんな話を聞いていた寿一が能楽師を継がずにプロレスラーの道に向かうのは想像に難くない。幼いときに「神童」と呼ばれながらプロレスを選んだことに未練を感じていた寿一は、再び能を舞う。しかし、やればやるほど思い知らされたのは、「自分がいかにプロレスが好きなのか」ということだった。
親の介護、家の継承のドラマと思わせて、人生の折返し地点に立った主人公が、何がしたいのか、自分の道を考える物語なのである。
どこか重なる長瀬智也と観山寿一
第5話で家族旅行を計画した寿一は、気の乗らない家族に向けて「行かないで後悔するより行って後悔するのが観山家だから」と説得する。この「やらない後悔よりやる後悔」というマインドは彼のキャラクターを最も的確に表現したセリフだろう。どうせ後悔するならなんでもやってみるべきで、だからこそプロレスもやり、介護もやり、能もやる。家族旅行にだって行く。これはもう、人生に一片の悔いのない『北斗の拳』のラオウみたいな生き方である。
そして、寿一の体当たりの生き方を見ていると、このドラマが終了する3月の末に長年所属してきたジャニーズ事務所を退所することになっている長瀬智也自身に思いを馳せてしまうのである。
長瀬は決してジャニーズのスターとして体力の限界を感じたわけではないだろう。ただ人生の途中で、進む道を切り替える大きな岐路に立っていることは確か。現実の長瀬智也とドラマの観山寿一の現在地が重なり合い、得も言われぬリアリティーを感じさせるのだ。