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《追悼》日本一のスコアラー・安田猛 95年、野村監督とともにイチローを封じた“7×9の魔法陣”とは
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph bySankei Shimbun
posted2021/02/23 11:03
野村は安田を「日本一のスコアラー」と称賛していたという
「もう一つ、速い球のないピッチャーがイチローをどう攻めるかというところで効果的だったのは、外角低めの変化球、内角の速い変化球、内角低めに落ちる球でした。ただし50、60、70という内寄り低めのボールゾーンへ落とす球はイチローには打たれると……イチローはワンバウンドの球を平気でヒットにしていましたから、低めのストライクゾーンへ落としなさいと、野村監督がそう言っていたのを覚えています」
中継ぎだった伊東昭光や、第3戦に先発した吉井理人といった技で勝負するタイプのピッチャーは、イチローに低めの変化球で勝負を挑み、空振り三振を奪う。つまりはこの日本シリーズ、イチローはパワー系のピッチャーが投じるアウトハイのボールゾーンの速い球か、あるいは技巧派タイプのピッチャーが操る内外角いっぱいの低めへの変化球に苦しんだ。
「あれが6戦、7戦までもつれこんでいたら……」
それでもイチローはブロスや川崎のストレートが140kmに満たなければいとも簡単にヒットを放ち、目も身体も慣れてきた第5戦ではブロスの143kmのインハイをライトスタンドへ叩き込む。さらに最後となった打席では145kmのインハイも痛烈なライト前ヒットを放って、意地を見せた。安田が言った。
「イチローは明らかに対応してきていました。第5戦で終わったからよかったんですけど、あれが6戦、7戦までもつれこんでいたら、どうなっていたかわかりません。もしかしたらウチは、イチローにメッタ打ちされてやられていたかもしれませんね」
イチローは「僕に力がなかった」とコメントした。そんなはずがないことをわかっている天国の野村も、今ごろ安田のこの言葉に頷いていることだろう。あの、ニヤリという不敵な笑みを浮かべながら――。