お客さんが喜んでくれるのがモチベーション

「大変です。でも楽しいっていうのが先でしたね。お客さんからはよく“ここは居心地がいい”と言ってもらえます」

　温かいおにぎりと、温かい雰囲気。

　ボクシングファンも訪れて、自分の試合の話をしてくれるのもうれしいという。お客さんが喜んでくれるのがモチベーション。そこはボクシングも、料理も一緒だと彼は言葉に力をこめる。

　昨年のコロナ禍では1カ月の休業もあった。そのころからロードワークをまたやるようにもなった。多忙な折はボクシングを考えなくて済んだが、考える時間が増えたことで頭にボクシングがよぎることもあるという。

　ボクシングに対する未練なのか、それとも「しんどくて難しい世界」を生き抜くために、心にあるボクシングへの情熱に敢えて触れているのか、彼のなかでもきっと分かっていない。ただ無理やり切り離そうとするのではなく、自然体で受け止めているように傍からは見える。そしてそれが、人をほっこりさせるおにぎりにつながっていく。

　今の一番の望みは、何か？

　最後にそう尋ねると、梅さんというより梅くんと呼びたくなる元世界チャンプは言った。

「コロナを乗り越えて、コロナの前のようにみなさんに来ていただけるような店でありたいし、続けていけたらいいと思っています」

　ど根性はお手のもの。

　きょうもねじり鉢巻き姿でせっせとおにぎりを握る。