情熱のセカンドキャリアBACK NUMBER
WBO王座防衛戦で「急性硬膜下血腫」、23歳で引退に追い込まれ…山中竜也25歳は今なぜオニギリを握るのか
posted2021/02/23 06:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
SANKEI SHINBUN
大阪・北新地の一角に「おにぎり竜」はある。
カウンター10席のみの小さなお店。ショーケースにはおにぎり用の色とりどりの具材が並び、ねじり鉢巻き姿の店主が笑顔で迎えてくれる。
真っ白の職人半纏(はんてん)に腹巻き。昭和が漂うシルエットはあの「ど根性ガエル」の梅さんがモチーフだとか。良くも悪くも一本気で曲がったことが「でえきれえ」な江戸っ子の梅さんと違ってソフトな性格だが、出で立ちがここまでしっくり来る人もなかなかいない。
オープンして今年4月で丸2年になる。コンセプトは呑めるおにぎり屋。コロナ禍以前は新地の酔客が締めに訪れて、大いににぎわっていた。
今はコロナ禍の影響を受けながらも、持ち前のガッツで苦境をしのいでいる。営業時間短縮の要請に伴って午後8時までの営業だが、午後10時までテイクアウト販売もやっている。
「コロナの影響で厳しいのは厳しいですけど、常連さんをはじめお客さんに助けられています。“閉めずに続けてや”と声を掛けられますし、ありがたいですよね」
23歳で現役引退を余儀なくされた
声の主は、元WBO世界ミニマム級チャンピオンの山中竜也(りゅうや)。
22歳で頂点に立った男は23歳で現役引退を余儀なくされた。元々、セカンドキャリアで料理人を目指していたわけではなかった。
2018年7月13日、神戸市立中央体育館。
王者・山中は同級3位ビック・サルダール(フィリピン)を迎え、2度目の防衛戦に臨んでいた。接近戦に持ち込んでボディーブローをヒットさせるなど王者ペースかと思われたが、7ラウンドに強烈な右ストレートを食らってたまらずダウン。終盤は打ち合いに持ち込みながらも0-3判定で陥落した。
異変を感じたのは試合後、母親と一緒に会場を出た際のこと。