情熱のセカンドキャリアBACK NUMBER
WBO王座防衛戦で「急性硬膜下血腫」、23歳で引退に追い込まれ…山中竜也25歳は今なぜオニギリを握るのか
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph bySANKEI SHINBUN
posted2021/02/23 06:00
2018年03月18日、WBOミニマム級タイトル戦で王者・山中竜也(左)はモイセス・カジェロスにTKOで勝利し、初防衛に成功。この約5カ月後に引退するとは誰も想像できなかった
即入院となり、ICUに入った
自宅の実家から近いとあって自転車で会場入りしていたが、帰りは頭が痛くて乗れなかった。50mほど進んだところでうずくまってしまい、そこにちょうど会場を出たばかりの江藤日出典トレーナーが通りかかった。
「すぐに救急車を呼んで、病院に行こう!」
時間の経過とともに痛みは強くなる一方だった。即入院となり、ICUに入った。
「意識はずっとあったんです。これまでも試合後に頭が痛いことはありましたけど、もう比べられないほど痛くて。頭が爆発するんじゃないかっていうくらい。命の危険があるとまでは思っていなかったけど、これはただごとじゃないなとは感じていました」
JBCの規定によりボクサーライセンスが失効に
母は医師から「この先どうなるか分からない」と予断を許さない状況だと告げられたという。だが懸念された出血が止まったため、手術を回避することができた。診断結果は「急性硬膜下血腫」。日本ボクシングコミッション(JBC)の規定によって、ボクサーライセンスの失効となる。すなわちそれはボクサー引退を意味していた。
「入院3日目にJBCの方が病院に来られて『ボクシングを続けるのは無理です』と言われたんです。先輩ボクサーにもそれで引退してしまった方がいたので、自分ももしかしたらとは思っていたんですけど、現実的にはそう捉えていなかった。ショックとかどうとかじゃなく、そもそも自分のことだと思っていないんですから」
所属する真正ジムの山下正人会長は毎日、病院に駆けつけてくれていた。だが引退のことをはっきり切り出すことはなかったそうだ。
「僕が全然ヤル気だったんでそれはもう言いづらかったんだと思いますよ。(サルダール戦は)減量がきつくて、この試合を最後に階級上げるつもりでしたから」