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イチロー「378安打」vs「128安打」だけど…楽天3年前“ドラ1”が中学時代から温めてきた「イチローの金言」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byJIJI PRESS
posted2021/02/28 11:04
春季キャンプで打撃練習をする楽天の辰己涼介(沖縄県金武町で)
辰己自身、感謝はある。しかし、辟易とまではいかないにせよ、釈然としない気持ちはある。これが本音だ。
「味方の守備の時間を減らすために一生懸命やってるだけで。そこで『うまい』とか言われても、何がどううまいのか、ちょっとわからないです。まさか、自分があんま興味なかった守備で評価されるって……。嬉しい反面、『一番好きなバッティングで評価されたいな。されるように頑張らな』って思いますね」
追い求めながらも停滞する打撃をあざ笑うかのように、評価が右肩上がりの守備。望むものとの乖離が、辰己を苦しめているのか。
「まあ、いろいろっすね。いろいろっす。別に、心が折れたわけじゃないっす」
ここでもまた、はぐらかす。
ただ今度は、ちゃんと言葉を結んでくれた。「心が折れたわけじゃない」と。
「できひん、できひん」って言われながら
名を出すのもはばかる人間が多いなか、入団時からイチローを意識していたように、辰己とは向上心の塊のような選手である。
野球人生を振り返れば、高校までは取り立てて目立つような選手ではなかった。大学で素質を開花させ、プロへの道を切り拓けたのは、己の信じてきた道を邁進してきたからだ。
そうっすね。辰己が頷き、歩みを話す。
「ちっちゃい頃からずっと、親には目標を言い続けてきて。できひん、できひんって言われながら、最終的には結果を出して見返してきた。野球人生のスタートから、めちゃめちゃ優等生でやってきたわけではなくて、スロースターターな部分があるんで。挫折して、挫折して、見返して、見返して。どんどんステップアップしてきたんで。まあ、プロの世界は時間が限られていますけど、あのね、そろそろ見返していきたいとは思いますね」
「イチローさん、本田圭佑さん…口に出せる人自体、少ないですし」
輪郭が、少しだけ見えてきた。
辰己が漏らしていた「精神的に落ち着かなかった」という心の根源にあるのは、自分に対する憤りなのではないだろうか。
そうっすね。また頷く。「いろいろっす」とはぐらかすことなく、想いを吐く。