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ラグビーW杯「影のMVP」中村亮土 あの成功体験をサントリーでも…“最強のチームマン”新主将の個人目標とは
posted2021/02/19 06:01
text by
谷川良介Ryosuke Tanikawa
photograph by
Aki Nagao
《もちろん、(リーダーは)いた方がいいですよ。いた方がいいですけど、もっと大事なのは、何かを感じようとする人間がいるかどうかなんですよね。優秀なリーダーがいたって、それを見て何かを感じる人間が周りにいなかったら、何にもならないですよ、チームとして》
※引用:SMBC日興証券『人生100年 イチロー人生すごろく #8』より(https://www.smbcnikko.co.jp/ichiro/index.html)
いつかの映像コンテンツでイチローさんが語っていたリーダー論。それを思い出したのは、ラグビートップリーグ、サントリーサンゴリアスの新主将に指名された日本代表CTB中村亮土の言葉を聞いた時だった。
新型コロナウイルスの影響で停止していたチームの活動が再開された日、中村はチームに「頼もしさ」を感じたという。
「うまくいかない時こそチームが成長できる。2週間の自主隔離が決まった直後のミーティングでは、『貴重なシーズンだからこそ、優勝するために自分たちが今できることをしっかりやっていこう』と話をしました。(練習が再開した時には)クラブハウスの使い方とか、今までなかったルールが増えていたんですけど、それに不平不満を漏らすことは一切なく、理解し、受け入れ、前を向いてポジティブな考えでやろうという雰囲気でした。だから、初日はキャプテンなのに何もすることはなかったですね(笑)」
帝京大学時代の後輩でもあり、4季にわたって主将を務めた流大の後を継ぐ形でのキャプテン抜擢は、自身にとっても「驚き」だったと振り返る。しかし、そのリーダーシップはすでにチームに浸透しているようだ。
「何かを感じる人間」が多かったONE TEAM
思えば、ONE TEAM――2019年W杯で躍進したラグビー日本代表には、イチローさんの言う「何かを感じる人間」が多かったのかもしれない。
指揮官ジェイミー・ジョセフが考案した“リーダーグループ”は、ダイバーシティの集団を束ねるリーチマイケル主将を支える上で見事に機能した。その1人として、ディフェンスリーダーの責務を全うしたのが中村だった。
海外の列強を前にしても怯まず、タックルを繰り返しては誰よりも先に立ち上がる姿を「影のMVP」と呼ぶ玄人は多かった。決勝トーナメント進出を大きく手繰り寄せたアイルランド戦での日本の驚異的なタックル成功率は、健闘が光った堀江翔太やジェームス・ムーアらFW陣が待つ内側へと敵を追いやった、中村の速いプレッシャーによる賜物である。
リーチ主将が示す矢印に向かって、リーダーたちを中心に、それぞれが自分の持ち場で自主性を発揮し、積極的に言葉を交わして密度を深めていく。「ONE TEAM」という言葉をつくったジョセフHCの狙いは、中村たちが見せた姿勢を引き出すためのものだったようにも思えてくる。