オリンピックへの道BACK NUMBER
W杯ノルディック複合、日本人最多優勝へ 渡部暁斗が見出した「上達する喜び」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byJIJI PRESS
posted2021/01/31 17:00
1月24日、ノルディック複合のW杯個人第8戦で優勝し、荻原健司と並ぶ19勝目を挙げた渡部
昨シーズンは、ワールドカップ総合順位で9位と、継続してきた3位以内に至らなかった。
低迷の理由はシーズン前の準備の段階で、強化の方向を変えたことにあった。主に走力をアップさせることを考え、筋力トレーニングにより力を入れるなど身体の改革を目指したのだ。
それにはリスクも伴う。コンバインドの一方を占めるジャンプは細かな体重のコントロールが必要だからだ。
「取り組みを大きく変えて、全部悪い方向に流れが向いてしまった」
序盤の大会を終えて振り返ったように、パフォーマンスに悪影響が及んだのは否めない。ただリスクをとったのは、変わらなければオリンピックの金メダルはないと考えたからだ。
苦境のなかで見出した競技者の原点
苦しいシーズンの終盤、18度目の優勝を飾り、迎えたシーズン開幕前の昨年11月に、渡部は「今日を精一杯過ごすことに集中したい」とコメントしている。
それは、ここ数シーズンとは異なる趣の言葉だった。
コロナ禍のいまだからこその変化なのかもしれない。
他のスポーツがそうであるように、新型コロナウイルスはスキー界にも大きな影響を与えた。
収束の見通しはいっこうに立たず、今シーズンもまた、開幕への準備段階からダメージをもたらしている。
海外合宿などの強化面だけではない。東京五輪の行方が不透明感を増しているように、北京五輪もまた開催が確かとは言えない状況にあり、選手のメンタルにも影響が及んでいる。
渡部もまたコロナ禍にあって、競技の先行きを考えることになった。トレーニングをしつつ、自然に自分自身と向き合うことにもなった。
やがて到達したのは、「上達することの喜び」だった。いわば原点に戻ることで、コロナ禍への不安も消えていった。
「大会(北京五輪)があるかないかは信じられない部分がありますが、自分が上達することを楽しみに日々、探求していきたいです」
今シーズン前に語った抱負は渡部が見出した発見を示していた。
オリンピックがあってもなくても、より成長したい、そのために自分のやることに変わりはない。
その心境を得て、渡部はシーズンを過ごしていく。