マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
前田健太のカゲで“自信を失くした”野村祐輔の記憶…今年のカープ“ドラ1投手”も「ブルペンで目立たないタイプ」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2021/01/28 17:35
広島から1位指名され、笑顔でポーズをとるトヨタ自動車の栗林良吏
「プロでやろうって言ってるピッチャーが、あんな幼稚なボール投げてちゃ恥ずかしいですから」
大人のピッチングだった。
監督「ここ一番の“殺気”は怖いぐらいですよ」
向き合っている捕手に、ただ投げているだけじゃない。
こちらがかける言葉にいちいち反応しながら、時には、自分自身で自分に言葉をかけながら、ピッチングのリズムを構築しながら投げ進む。
「よっし……フォーク! 今のよりボール1つ低くいくよ」
つぶやきの中に、1球に懸ける思いがこもる。
場面想定を作りながら、腕を振る真剣さとテンションは、もう実戦のマウンドそのままだった。
捕球を終えて、投げ損じのない次元の高いピッチングに驚きを伝えると、藤原航平監督がこんなことをおっしゃった。
「いやいや、実戦のピッチングになったら、こんなもんじゃない! 栗林は、追い込んだら三振を奪いにいくピッチャー。ここ一番の“殺気”は怖いぐらいですよ。ブルペンのピッチングなんて、今日みたいに調子いい日でも、実戦の7割も再現していないと思いますよ」
栗林のほんとのすごさは、対戦したバッターにしかわからない……そんな言い方で、「実戦力の栗林良吏」を表現してくださった。
「みんな、菅野がすごい、すごいって言ってますけど…」
2012年、広島カープの日南キャンプ。
天福球場ライト後方のブルペンで、一軍投手たちのピッチング練習が始まっていた。
先発の柱・大竹寛、抑えの切り札・ミコライオ、中継ぎとして売り出し中の剛腕・今村猛……そして、彼らをしたがえるように、真ん中のマウンドには、エース・前田健太。
壮観な風景のいちばん奥のマウンドで、ルーキー・野村祐輔が懸命に腕を振る。
昼休みのトイレでばったり顔を合わせた野村に、こんな訊き方をされた。
「自分、学生の頃より上がってますか?」