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前田健太のカゲで“自信を失くした”野村祐輔の記憶…今年のカープ“ドラ1投手”も「ブルペンで目立たないタイプ」
posted2021/01/28 17:35
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
KYODO
プロ野球の春季キャンプ、その序盤で大きな活字になるのは、球の速い投手だ。
特にルーキーの場合、キャンプでのブルペン入りも早いし、「投げるからには目立たないと!」とビュンビュン飛ばすことが多いので、記事で取り上げられやすい。
一方で、キャンプ当初のブルペン投球ではあまり目立たなくても、実戦形式の練習になって初めて、キラキラッと光る投手が、毎年必ずいるものだ。
私が、キャンプの2月なかば過ぎを楽しみにしているのが、広島ドラフト1位の栗林良吏投手(トヨタ自動車)だ。
178cm83kg……今のプロ野球では、小柄な部類のサイズ。アベレージ145キロ前後の球速で、変化球との緩急でアウトを重ねていくピッチングスタイル。捕手とさし向かいで投げるだけのブルペンでは、あまり目立たないタイプなのは間違いないだろう。
「あんな幼稚なボール投げてちゃ恥ずかしい」
こんなことがあった。
昨年秋のドラフト前。テレビ番組の企画で、栗林のピッチングをトヨタ自動車グラウンドのブルペンで受けさせてもらったのだ。
そんなに“力感”はないのに、140キロ台の速球がミットにめり込むまで、回転がほどけない。
野球というのは面白い。「145キロ」の雰囲気を漂わせてエイヤー!と投げれば、150キロ出ても打たれてしまう。逆に、130キロ台の力感でスイッと投げれば、140キロ前半でも空振りを奪える。
打者を相手にした「投」のなんたるかをすでに察知しているようなほど良い「塩梅」の投げっぷり。
落下速度の速いタテのカーブに、打者の手元でヒョイッと動くカットボール。フォークは、リリースの一瞬に指先で押し込むようにするから、“抜け”がよくて打者はフワッとタイミングを失いそうだ。
30球ほど投げてくれて、構えたミットを逸したのは、右打者の胸元あたりに浮いた2、3球だけ。それほどの高精度なのに、その「2、3球」をものすごく悔やむ。