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“J監督経験ゼロの日本人指導者”がタイ強豪&弱小クラブの救世主? 滝雅美の物語が濃すぎる

posted2021/01/18 06:00

 
“J監督経験ゼロの日本人指導者”がタイ強豪&弱小クラブの救世主? 滝雅美の物語が濃すぎる<Number Web> photograph by Getty Images

タイで指導者としてのキャリアを積む滝雅美。彼のような存在がアジア、ひいては日本サッカーの質を上げるはずだ

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中野吉之伴

中野吉之伴Kichinosuke Nakano

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 滝雅美という日本人指導者を知っているだろうか。

 Jリーグでの監督経験はないので、知らない人も多いかもしれない。滝はタイリーグで指揮を執った初の日本人指導者であり、2019年12月には前年度タイ・プレミアリーグ優勝クラブであるチェンライ・ユナイテッドに監督として迎えられたほど、地元の評価は高い。AFCチャンピオンズリーグにも出場する強豪クラブは、なぜ著名な日本人監督ではなく、滝にオファーを送ったのか。

 そこには異国の地で信頼を勝ち取り、しかし信頼の形に苦しみ、それでもサッカーと、そして現場の人間とまっすぐに向き合ってきた、ひとりの男の物語がある。

突然届いた「タイ2部クラブ」からのオファー

 滝がタイに渡るきっかけは突然訪れた。2008年、当時2部リーグに所属していたタイ・ホンダFCから連絡が届いた。知人に紹介されたのだという。そのとき滝はセレッソ大阪アカデミーコーチやFC琉球ユース監督を経て、ちょうどフリーだった。

 あまりにいきなりのこと。最初は想像することもできず誘いを断ったが、今後の行先を模索していた状況でもあったため後日、改めて自らコンタクトをとってみた。

「『一度来てみてくださいよ』と言われたので、4日間の予定で行ってみたんです。練習を見学して、関係者と話して……くらいをイメージしていましたが、いきなりグラウンドに連れていかれて『練習着です』って。『あ、俺のことテストしようとしているのかな?』と思ったので、とりあえず着替えて、練習することにしたんです。選手の名前もまったくわからないからゲーム形式で、あとは片言の英語と身振り手振りで、気になったところを伝えてみました。自分がピッチで実際に動いて示す、みたいな感じでした」

残留プレーオフの初戦……「監督やってくれ!」

 練習後に話を聞くと、タイ・ホンダFCは3部に落ちるはずだったが、バンコク・バンクというチームがリーマンショックの影響でチームを解散することになったため、降格予定の4チームでプレーオフを行い、1チームが2部に残れるとか。

 そして、プレーオフの大事な初戦が次の日曜日にある。「それは大変だなぁ」くらいに聞いていた滝の耳に、驚きの話が飛び込んでくる。

「で、その試合の監督を滝さんにやってもらいたい」

【次ページ】 残留を決めて「じゃあ来シーズンもよろしく」

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