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羽生結弦の美しさと強さが全選手にエネルギーを…逆境のなかの圧巻の一戦【全日本フィギュア】
 

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野口美惠

野口美惠Yoshie Noguchi

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photograph byNaoki Nishimura/AFLO SPORT

posted2020/12/29 11:06

羽生結弦の美しさと強さが全選手にエネルギーを…逆境のなかの圧巻の一戦【全日本フィギュア】<Number Web> photograph by Naoki Nishimura/AFLO SPORT

5年ぶりに全日本王者を奪還した羽生結弦

「ちょっとでも明るい話題になったら」

「こういう(コロナ禍の)状況のなかで自分が胸張って試合に出るには、コーチを呼ぶべきではないと判断しました」

 ひとりで試合に臨むには不安もあったことだろう。しかし12月24日の公式練習初日に現れた羽生は、完ぺきなジャンプで、関係者を虜にした。回転軸が以前よりもさらに細くなり、すべてのジャンプを軽々と力を入れずに跳ぶのだ。回転を始める時に「ギュッ」から「キュッ」になったというイメージ。それは4回転アクセルを練習してきたことを裏付ける証拠でもあった。ジャンプ練習を見た時は、あくまでも成功率が上がったと感じていたが、その予想は良い意味でフリープログラムを見た時に裏切られることになる。

 まず25日のショートは、楽しさを伝えてくれるものだった。ジェフリー・バトル振付、ロビー・ウィリアムズのロック『Let Me Entertain You』は、観客も一緒にノッていけるナンバーだ。

「最初はピアノ曲を探していましたが、世界の状況を見ているなかで、ちょっとでも明るい話題になったら」という。

足替えシットスピンが「0点」になった

 4回転サルコウとトウループを入れ、パーフェクトの演技ながら、103.53点。110点に近い数字が予想されるなか、失点の原因は、足替えシットスピンが「0点」になったことだった。

 これには、羽生が「レベルを獲るためのスピン」ではなく「観客を盛り上げるためのスピン」として内容を決めていたことに起因していた。

 羽生がトライした足替えシットスピンは、まず、得意とするイリュージョン(上体を下げて、逆立ちのような回転をする)の入り方で華やかに始まる。その後、右足で「足を前に伸ばした難しい姿勢」をふたつ、さらに左足で「足を横」と「足を後ろ」の難しい姿勢を次々と入れる。結果として、音楽の激しいメロディに合わせるように、4つの姿勢変化をする。

 しかし実際には、レベル4を獲得するための特徴は、「難しい入り」と「足を前」と「足を横」と「足を後ろ」の計4つ。右足で2つ目に行った姿勢は必要ないが、羽生はあえて4つの姿勢をいれた。

 羽生はこのロックナンバーで「色々なものを加えて、全部が見所みたいな感じにしたい」と考えていた。イリュージョンも、次々と難しい姿勢を変化させるのも、すべて曲想にあわせた表現であり、見る者を引き込む「カッコ良さ」。レベルを獲るための最低限をこなすのではなく、音楽表現のために「イリュージョン」+「難しい姿勢4つ」という、まるで修行のような難しいスピンにしていたのだ。

 そして、ステップシークエンスに入る前には、観客席に手拍子を誘うシーンがあるため、早めにスピンを終わらせなければならない。本番の高揚感もあり、左足に換えたあとのシット姿勢での回転数が規定に足りず、結果として「0点」となってしまった。

 羽生の振付へのこだわりが生んだ失点と、見所満載の演技。それが新ショートのお披露目だった。

【次ページ】 「風が舞い上がるような音の感覚があった」

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