フィギュアスケートPRESSBACK NUMBER
羽生結弦の美しさと強さが全選手にエネルギーを…逆境のなかの圧巻の一戦【全日本フィギュア】
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byNaoki Nishimura/AFLO SPORT
posted2020/12/29 11:06
5年ぶりに全日本王者を奪還した羽生結弦
「スケート人生で一番の努力をしてきた」
友野一希は、「スケート人生で一番の努力をしてきた」という仕上がりの良さで、練習での4回転サルコウが絶好調。ところが本番ではミスが出てしまい、223.16点での6位となった。
「努力をすべて棒に振る演技でした。試合で自分の強さを出していけるよう追求していきたいです」と話した。
西日本選手権で優勝した山本草太も、ショートは6位通過したものの、フリーでは力を出しきれず、総合9位に。
「最終グループに入りたいという気持ちで臨み、念願の最終グループで滑れて幸せな気持ちでした。今季は、怪我や病気がなかったけれど、違う不安や焦りがありました」と振り返った。
北京五輪へのレースはここから、いくらでも逆転はある。1年後、成長した姿で戦うことをそれぞれが誓った。
日野、本田、涙の引退
一方で、この全日本選手権がスケート人生最後と決めて臨んだ男達がいた。本田5人兄妹の長男である本田太一は、今回がラスト全日本。ショートはトリプルアクセルを降りて12位で通過し、フリーも力の限りで滑った。
「ショートは実力以上のものがだせた奇跡の演技。引退して社会人になっても、一生忘れないと思います。妹達に何を残せたかな。2日間の僕の演技が全てです。出し尽くせたと思います」と涙をぬぐった。
本田の次の滑走となった日野龍樹も、「ラスト」のひとり。決めたのはショートで11位となった夜だったという。フリーも最後まで演じきり、11位を飾った。
「夜から今朝にかけて決めました。こんなもんっすよ、辞める時って。12回もこんな試合に出させていただいて光栄でしたし、今年は自分のなかでも満足度の高い全日本でした」
演技後、リンクサイドに残って演技を見守っていた本田に気づくと、抱き合った2人。涙をぬぐうことなく、スケート人生を讃え合った。
すべての選手がインタビューのたびに語ったのは、コロナ禍のなか試合を開催・運営してくださった方々への感謝。滑れること、そして演技を通じて感動を伝えることの偉大さを実感する3日間だった。去る者、何かを掴んだ者、失った者、それぞれの涙を胸に、次の一歩へと進んでいった。