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<ホークス記者が明かす>内川聖一「チャンスをもらえなかった」発言の真相 ヤクルト移籍の決め手は“恩人”
posted2020/12/09 17:04
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Jiji Press
内川聖一の新天地が東京ヤクルトスワローズに決まった。12月8日に契約合意に達したとスワローズが発表。11日には正式にサインを交わすことになっている。
「今年は一軍で1打席もチャンスをもらえなかった。野球をやめる決心がつかなかった」
10年間在籍したホークスでの最終試合を終えた直後の言葉が物議を醸し、いくつかの憶測記事を呼ぶきっかけにもなった。
じつは、内川はその言葉の真意をグラウンド挨拶後の囲み取材の中で語っていたのだが、あまり報じられていない。筆者も早く文字化してお伝えすればよかったのだが、完全に怠けてしまっていた。その場に居合わせた取材者としてお詫びをしたい。
シーズン打率.327でも……
シーズン終了からしばらく時間が経ったので、改めて2020年の内川を振り返る。今季は開幕前の練習試合で21打数1安打と大不振だったことから、自身17年ぶりに開幕二軍でのスタートとなった。しかし、通算2171安打を放ってきた稀代のバットマンは格の違いを見せつけるようにウエスタン・リーグで快打を放った。特に7月終了時点では32打数15安打で打率.469の成績。その後失速して衰えを指摘する声が大きくなり始めるも、10月には月間打率.368と盛り返してみせた。最終的にはシーズン打率.327を残した。
あくまで二軍での成績だ。そのまま一軍での打撃に繋がるとは言えないが、繋がらないと絶対的な否定もできない。解釈を変えるだけで、どんな評価にもなってしまう。
だから決心がつかなかったのかと言うと、そんな単純な話でもなかった。
内川なりの思いがそこにはあった。
「一軍でやっていた打撃と違うことをやった中で、(ファームで)結果を出すことが出来た。自分の引き出しを増やす機会になりましたし、もし以前と同じ打ち方で打てたのならば、『二軍だから』と考える部分があったと思う。だけど、そこに変化を付け加えて結果が出たと思っていて、『まだ野球をやっていいんだ』ってワクワクする気分になれたんです。
今年一軍でやって、ダメならば……という気持ちでシーズンに入りました。だけど、残念ながら一軍で1打席もないままシーズンが終わってしまったので、ちょっとこのままでは終われないなと。悔しいというか、そこは僕がコントロールできることじゃない。判断するのは首脳陣です。その判断が『内川を一軍に』とならなかったのは残念だったけど、僕の中でやるだけのことはやりました。これ以上やることはないので、次に向かって進んでいこうかなという気持ちになったのはありますね」
7年前のあの「事件」
ホークスでのラストゲームに臨んだ11月1日のタマホームスタジアム筑後は、とても清々しい秋晴れだった。あの日の内川はずっと笑顔だった。