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【有馬記念】「甘っちょろいことやってたな」戸崎圭太が振り返る2014年とジェンティルドンナ
posted2020/12/26 06:00
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph by
Keiji Ishikawa
初出:Sports Graphic Number987号(2019年10月3日)「戸崎圭太「性格が正反対な馬と騎手。『彼女が僕を運んでくれた』」(肩書など全て当時)
十人十色。十頭十色。
戸崎圭太いわく「馬も人間と同じ。性格はそれぞれで全然違うんです」。2014年から'16年まで3年連続でリーディングジョッキーに輝いた名手は、自身の性格を正直にこう明かす。
「僕は勝負弱い。騎手向きの性格じゃないですね。例えばサッカーやラグビーのような競技をやっていたら、絶対に第一線では活躍できていないと思います。中学時代まで野球をやっていましたけど、ずっと補欠でしたし、勝負事は、たぶん何をやっても弱いはずです。チャンスがあると思って、競馬場に家族を呼んだときも、一度も勝てていないですからね(苦笑)。
僕が騎手としてやっていけているのは、馬が走ってくれて、周りの人に恵まれているからこそ。この“人と馬に恵まれる”能力だけは、他の騎手よりもあると思います。地方競馬時代に川島(正行)先生に可愛がってもらわなければ、リーディングなんて取れなかったでしょうし、中央に移籍することもできなかったはずですから」
この馬の性格が自分とは正反対だと気づいた
'14年、秋の天皇賞で初めてジェンティルドンナに乗ったとき、この馬の性格が自分とは正反対であることに気づいた。
「ジェンティルは勝負強い。走る気持ちが強いんです。他の馬に萎縮したり、狭いところに入るのを躊躇する馬もたくさんいますけど、ジェンティルにはそれがない」
4コーナーの最内を回って直線に入ったとき、前をカレンブラックヒル、外をマイネルラクリマに塞がれる形となった。そこで戸崎が選択したのが、狭い内ラチ沿い。ジェンティルドンナはすぐさま反応し、一気に先頭に立った。最後は外から伸びたスピルバーグにかわされて2着となったものの、その闘争心と能力の高さに驚かされた。
「ジェンティルは、抜群に乗り味が良いという馬ではないんです。例えばフェノーメノほどバネがあるわけじゃない。それなのに直線であの狭いところを割って入っていける。本当に気持ちが強いなと思いました」