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【有馬記念】「甘っちょろいことやってたな」戸崎圭太が振り返る2014年とジェンティルドンナ
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph byKeiji Ishikawa
posted2020/12/26 06:00
戸崎圭太は「性格が正反対」の馬、ジェンティルドンナと挑んだ14年の有馬記念を覚えている
「まずは無事に帰ってこようね」
12月、戸崎のもとへ再びジェンティルドンナへの騎乗依頼が届いた。舞台は有馬記念。しかも、これが引退レースであり、終了後には引退セレモニーが行なわれることも決まっていた。
レース前、戸崎には必ず行なうルーティンがある。騎乗する馬と対面したら、首筋を撫でながら、優しく声をかける。有馬記念のときは、こう話しかけた。
「まずは無事に帰ってこようね」
このとき、戸崎は自身初のリーディング獲得を確定させていた。ただし、GIでの勝利がなかったことから、「内容には全然満足できていなかった」。だから、この有馬記念はどうしても勝ちたかった。天皇賞・秋の経験から、自信もあった。それでも、馬の無事を最優先する言葉が、彼らしい。
一方のジェンティルドンナは、引退レースでも“勝つ気マンマン”だった。
「あのレースは、人馬一体で一緒に戦ったというよりも、ジェンティルが僕を運んでくれたという感覚なんです。あそこまでペースが遅くなったのは意外でしたけど、道中はずっと手応えがありました」
「よし! いけるぞ」あの興奮は忘れられない
2枠4番のジェンティルドンナは、勢い良くゲートを飛び出すと、3番手の好位置をキープ。4コーナーで先行するヴィルシーナを、直線でエピファネイアを捉えた。
「4コーナーに向かうまではペースが遅くて、“うまくいったな”という感じで。あとはジェンティルがどれぐらい辛抱してくれるかを考えていました。追い出して、前の馬を捕まえてかわしたときに、“よし! いけるぞ”と。あの興奮は忘れられない」
トゥザワールドとゴールドシップの猛追を振り切り、戸崎が左拳を突き上げた。続く最終11レースも終わった。それでも中山競馬場のスタンドは、観衆でびっしりと埋まっていた。誰もが最後にもう一度、ジェンティルドンナの姿を見たかった。
「引退式は、最高の雰囲気でした。あれこそ、ジェンティルの力。引退レースを自分の力で飾れる。やっぱり僕にはない勝負強さを持っていますよね」