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ミスしても不思議な魅力…村元哉中・高橋大輔組がデビュー 常識を変えるような“化学反応”が?
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byYukihito Taguchi
posted2020/12/03 17:03
リズムダンスは64.15点で2位、フリーダンスで93.10点の3位となり、合計157.25点で3組3位でデビュー戦となるNHK杯を終えた
「あそこまでのミスは練習ではしない」
「会場に来てから、僕の右回りが不安定になっていて、考え過ぎてしまっていました。2人でやる部分なので、自分だけ(勢いが足りなかったら)3回転にすればいいというものでもなく、きっちり4回転回らないといけない。シングルに比べて常に神経を使います」
その不安が現実となり、2つ目の右回りツイズルの時に、高橋はトウをひっかけてバランスを崩し、両手を氷に突いてしまった。コロナ禍のため声援を自粛していた会場からも、思わず「あー」という悲鳴が起きる。アイスダンスでは、氷に触ったら転倒と同様にみなされるため、出来映え(GOE)の減点と転倒の減点がついた。
「ツイズルで転倒しかけるなんて、あそこまでのミスは練習ではしないので、これが試合だなと思いました。トランジションでも2人のエッジがぶつかったり、いつもに無いミスがあり、メンタルコントロールをしなきゃという今後に繋がる経験になりました」(高橋)
しかし最後の見せ場は、2人の大きな可能性を予感させる内容だった。コレオステップは喜びを爆発させるような華やかな滑りをみせ、スライディングムーブメントでは独創性溢れるニースライド(膝を突いて滑らせながら行う演技)で感情をぶつけあうようなやりとりを見せた。
「私達のゴールは、北京五輪」
最後のポーズもバッチリ決まり、会場は感動と喜びの拍手に包まれる。しかし高橋は子供が母親に怒られているような顔で、村元の顔色を窺う。いまにも泣き出しそうな表情がキュートで、観客はつい笑顔になってしまうほどだった。
得点は、総合157.25点で3位。
しかし現時点での得点や順位は重要ではない。デビュー戦を滑り切った満足感と、湧き出るモチベーションで、2人の胸はいっぱいだった。村元は言う。
「私達のゴールは、北京五輪。そのための第1ステップに立てたという気持ちです。「コーチのマリーナからは、『アイスダンスに新しい風を起こすカップルになれる』と言われています。2人が世界を経験してきたことを強みに、出来ると信じてやっていきます」
高橋も「まだ僕たちカップルの良さを見つけていく段階です。哉中ちゃんは華やかで魅力的なスケーターなので僕も負けないように、カップルですがライバルという気持ちを持ちながら、良い化学反応を起こせればいいかなと思います」と誓った。
2人の起こす化学反応。それはアイスダンスの常識さえ変えるような、歴史的な爆発になる。その日を心待ちに、2人にエールを送りたい。