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大の練習嫌いな“ジャイアン”からNo.1の自主練量 川崎の新人王候補・増田啓介が変貌したワケ
text by
青木美帆Miho Awokie
photograph byB.LEAGUE
posted2020/11/16 17:00
11月16日時点で13試合に出場し、チーム内5位(日本出身選手では辻、藤井祐眞につぐ3位)の78得点をあげている増田啓介
「気分屋」「ジャイアン」など散々な証言が多い
当時は「これは本当に、中学時代から世代トップを走ってきた選手の言葉なのだろうか」と驚愕したが、その後のインタビューで、大学入学後に予想以上に早く主力になったことについて「捨て身じゃないですけれど、『どうにでもなれ』という意識で取り組んでいたのがよかったのかもしれないですね」と話していたことを、今さら思い出した。
未来を描かず、「今」に全力でフォーカスできるからこそ、気負わずにプレーできる。増田ののびのびとしたプレーの原点がよく理解できた。
高校時代、差し入れのたい焼きをしっぽだけ残して、同級生に「お前のと交換しろ」と迫った。
大学時代も、同級生が食べていたパンを横取りした。「気分屋」「わがまま」「ジャイアン」と散々な証言が多い増田だが、大学4年になってからは心の面で大きく変化したと片峯コーチは話す。
「自分が悔しい」から「チームが悔しい」へ
「『自分が悔しい』から『チームが悔しい』という発想に変わっていたんです。筑波大の吉田(健司)コーチに聞いたんですが、コーチが増田の今後を考えてポジションを4番(パワーフォワード)から3番(スモールフォワード)に上げなければと考えたところ、『僕が4番でチームが勝つのであれば4番で出してください』と言ったんだそうです。
インカレ前には、わざわざ福岡までやってきて『いろんな人に支えられていることに、今になって気づいた』と話していました。それを聞いて、これなら大丈夫だと。『そこに気づけているんなら、Bリーグに挑戦しても大丈夫』と声をかけました」
大学3年のころまでは、大の練習嫌い。「がんばらなきゃっていうときに限って『ああ、もういいや』ってなっちゃうんです」と頭をかいていた増田も、今やチームで一番の自主練量を誇り、「練習に付き合ってくれたアシスタントコーチたちに少しでも試合で恩返しがしたい」と、てらいなく言える選手になった。
194センチのフォワードは、Bリーグ上位や日本代表レベルでは決して大きくはない。しかし彼のプレーの多彩さと賢さ、そして、ここ数年で芽生えたまわりへの思いやりがあれば、より高いところへとステップアップできるはずだ。