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「阪神スカウトから非常識なカネが…」 あの『ドラフト裏金事件』で阪神オーナーに届いた“怪文書”の中身
text by
清武英利Hidetoshi Kiyotake
photograph byKYODO
posted2020/11/14 17:02
2004年ドラフト、曲折を経て、楽天への入団が決まった明大・一場靖弘
「おたくのスカウトたちはすぐ帰られますわ」
長い間、スカウトたちはタイガースという看板を背負いながら、良い選手を取れずにいた。巨人に反立して創設された名門なのである。だが、その巨人のスカウトが出てくると競争に負け、「カネがないのだから仕方ない」と言い訳したり、「コーチが育てられないからだめなのや」と責任転嫁をしたりしていた。
スカウトが遅れを取る理由に気付いたのは、野崎がどん底で球団本部長に就いたときである。大学や社会人の関係者に内輪話を聞いた。
「おたくのスカウトたちは視察に来られましてもね、試合が終わるとすぐ帰られますわ。『ちょっと話しようか』と言うと、スーッとおらんようになる」
野崎は恥ずかしかった。それで、ちょっとした会食で相手の話を聞くのもスカウト活動の一つや、というような話を編成幹部にしたのだった。それがこんな形になって現れた。
社長辞任、どう切り出そうか
いよいよ社長辞任の気持ちを固めたのは、告発文書の日付から3日後、10月15日のことである。この日は午後2時から、監督の岡田(彰布)が4位に終わったシーズンの終了報告をオーナーにすることになっていた。野崎は一リーグ問題をめぐって久万に盾を突いてから、腹を割った話ができなくなっている。
──さて、どう切り出そうか。
岡田に同行する野崎は、阪神電鉄本社に向かいながら、考えを巡らせていた。
彼は備忘録用の小さなノートをいつも背広の内ポケットに入れている。そこに、〈12日付けのレター 一場選手をはじめ、皆様に多大なご迷惑をおかけしました。本日、久万オーナーに辞任を申し出ました〉と走り書きをしていた。これは辞任して、新聞記者に囲まれたときに備えた口上である。
だが、思うようには運ばなかった。
岡田は3年契約である。まだ2年も監督契約が残っており、久万との会話ははずんで、約2時間に及んだ。報告が終わり岡田が応接室の席を立つと、野崎は久万に向かって、「私が責任を取り、社長を辞任いたします」と頭を下げた。久万は取り合わなかった。