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「阪神スカウトから非常識なカネが…」 あの『ドラフト裏金事件』で阪神オーナーに届いた“怪文書”の中身
posted2020/11/14 17:02
text by
清武英利Hidetoshi Kiyotake
photograph by
KYODO
「阪神スカウトから非常識な金額が一場投手に渡っております」
〈久万俊二郎殿 直披〉と記された封書は、タイガースオーナーである久万の私邸に届き、そこから球団にもたらされた。
裏書きも角のある手書きで、〈阪神を愛し、正義を尊ぶ田中、若島〉とある。中にはワープロ書きで2枚の告発文が入っていて、日付は2004年10月12日となっていた。
当初、球団では封書を怪文書の類だと見ていたが、球界の事情に精通した者でなければ書けない内容でもあり、野崎は暗い気持ちになった。
それは、明治大学の一場(靖弘)のプロ入りに関し、巨人による不正な金銭授受を突き止めて、巨人に忠言したのは我々であると宣言していた。そして、巨人オーナーの渡邉(恒雄)や球団社長、球団代表らは、その非を認めて辞任せざるを得なかったのだと指摘し、驚くような記述を続けていた。
<実は、8月の時点で、阪神球団と横浜球団も一場投手に多額の金銭を提供していたことを、我々は掌握しておりました。「栄養費」「タクシー代」などと称して、阪神球団のスカウトから、数回にわたり、巨人軍より多少は少ないとはいえ、学生にとっては極めて非常識な金額が一場投手に渡っております。(中略)我々はこれら外部に流出した一部資料のコピーや、一場投手が同僚との会話の中で、それらの事実を認めている録音テープも所持しております>
もし一場獲得に向かわれるならば、我々は天誅を加える
──これは放置できない。
野崎はそう思って、調査を命じた。タイガースでスカウトを管轄した球団本部長は7月1日付の人事ですでに異動している。その球団本部長は野崎が進めるBOS改革に消極的で、情報を上げてこないのが悩みだったが、こんなことがあったのか、と彼は眉をひそめた。
渡邉が事実を認めて辞任したのは夏の盛りである。なぜ、2か月も過ぎた今になって──。その疑問に告発の封書はこう応えていた。
<事後、横浜球団は我々の社会正義を追求する理念と行動の背景を十分に察知して一場獲得を断念したようですが、阪神球団が今秋のドラフトで一場投手を獲得することが確実という有力な情報に接しました。(中略)もし一場獲得に本当に向かわれるならば、我々は天誅を加える行動を起こさざるを得ません>
その文面を読んで、彼らの動機に野崎は強い不審を感じた。
──事実関係がひっくり返ってるわ。本当に巨人を告発した連中が書いたのか?