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<涙の引退>オリックスを支えた38歳山崎勝己 若手投手、後輩捕手が「勝己さん」を慕った理由
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2020/11/13 11:00
現役最後の試合を終え、ナインに胴上げされる山崎勝己。ルーキー宮城大弥のプロ初勝利、鈴木優のプロ初セーブをアシストした
後輩捕手に惜しみなく伝えたこと
捕手陣には、さらに大きな影響を与えてきた。今年出場機会を増やした伏見寅威は、山崎のことを「目標であり、お手本であり、教科書みたいな存在」だと言う。
「勝己さんは先手先手でいろんなことを考えている。例えば、ピッチャーが調子がよければこういう感じでいこうというパターンAと、この球が悪かった時はこうしようというパターンB、ダメだった時のパターンC、というふうに、こうなった時にはこうしようという、いろんな引き出しを持っている。準備の仕方がうまいというか、ピッチャーに前もって、『このバッターにこの球を投げる時だけはこうしような』という話をしていたりして、『そんなに細かく伝えるんだ』と驚きました。
試合中も、1球1球、さらっとやらないで、ジェスチャーや構え方で、ここは低くとか高くとか、ここはボールでとか、意図をしっかりとピッチャーに伝える。すごく勉強になって、真似させてもらいました。僕だけじゃなく、他のキャッチャーもみんなたぶん同じだと思います」
山崎は親身になって後輩捕手の相談にのり、自身がプロで生き抜くために身につけたリードや考え方を惜しみなく伝えた。1つのポジションを争うライバルでもあるが、手の内を隠すことはなかった。
伏見は、「僕は正直ライバルと思えたことがないですね。レベルが違いすぎて、ライバルなんて言えるようなところまで僕は行けてなかった。勝っていたのはバッティングぐらい(笑)。何かあったら僕は勝己さんに相談させてもらっていた。今年こうやって試合に出られて、ある程度ゲームを作れているのは勝己さんのおかげだとも思っています」と言う。
慕われた「勝己さん」来季もオリックスのために
経験豊富なチーム最年長の38歳だが、近寄りがたさがまったくなく、高卒1年目の選手ともまるで友達のように接し、誰からも「勝己さん」と慕われた。
若月は、今年の1月、山崎と一緒に自主トレを行った。「こんなことを言ったら失礼になりますけど、年齢のこともありますし、勝己さんが現役のうちに一緒にやらせてもらいたかったので」と語っていた。
ただ、これまで山崎は、後輩にこういうアドバイスをした、というようなことはあまり明かさなかった。それは本来バッテリーコーチの仕事。コーチ陣の立場を慮ってのことだった。
これからはそんな気がねはいらなくなる。来季はコーチに就任する見込みだ。
「オリックス球団のほうから、もう少し力を貸して欲しいと言われたので、次の仕事をしっかりと頑張りたいと思います」
チームを勝利に導く捕手の育成に、これからは全力を傾ける。後輩たちにとって、これほど心強い存在はいない。