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<涙の引退>オリックスを支えた38歳山崎勝己 若手投手、後輩捕手が「勝己さん」を慕った理由
posted2020/11/13 11:00
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Kyodo News
11月6日に行われた引退試合。プロ生活20年間をダイエー、ソフトバンク、オリックスで過ごした38歳の捕手・山崎勝己に、最後の最後に用意されていたのは、しびれる場面だった。
この日はドラフト1位の高卒ルーキー・宮城大弥が今年最後の先発登板。5回3失点でマウンドを降りると、その裏、ドラフト2位の高卒ルーキー・紅林弘太郎のタイムリーで4-3と勝ち越し、宮城が勝利投手の権利を得た。リリーフ陣が無失点でつないで迎えた9回表にマスクを被ったのが山崎だった。
宮城はそれまで2試合、好投しながらも勝ち星がついておらず、その日がルーキーイヤーにプロ初勝利を挙げる最後のチャンス。しかもリードはわずか1点。
「3倍ぐらい緊張感が増しました」と試合後、山崎は苦笑した。
最後の打席では涙、ただ9回のマスクは……
8回裏に代打で登場した時は、こらえきれず、打席の中で涙ぐんだ。
「絶対泣かないでおこうと思ってたんですけど、あの応援を聞いたら、いきなりきちゃいましたね。僕はもうずっと守備をやっていたので、『守備だけで大丈夫です』と言ったんですけど、中嶋(聡)監督代行の厚意で、打席までいただいて、本当にありがたいです」
しかし9回表にマスクを被る時には感傷は吹っ飛んでいた。何がなんでも1点を守りきらなければならない。
2死で迎えた日本ハムの3番・大田泰示の放った打球は勢いよく舞い上がり、球場中が息をのんだ。山崎も「行ったと思った」が、レフトフェンス直撃の二塁打にとどまった。その後、4番・中田翔をセンターフライに打ち取り、ゲームセット。山崎はポンとミットをたたき、マウンドに駆け寄った。
「もう、ホッとした気持ちしかなかった。自分のことなんかより、宮城の初勝利があったので……。本当によかったです。大田君のはほんとに行ったと思いました。その辺の感覚もちょっと鈍ってるんで、もう潮時じゃないですかね」と笑った。
山崎の元に戻ってきていたウイニングボールは、宮城に手渡した。グラウンドを去る20年目の捕手から、19歳のルーキーに手渡された記念球。宮城は何度もお辞儀をしながら受け取った。