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【ソフトバンク優勝秘話】試合中の涙に“賛否両論” スピードスター周東佑京が号泣した理由は?
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKyodo News
posted2020/10/28 11:02
9月11日の西武戦の3回1死一塁から、二盗を決めたソフトバンク周東。このあと三盗も決めて、犠飛で生還
前日11日のライオンズ戦ではヒーローになった。3回だ。難敵ニールからライト前に放った先制タイムリーも見事だったが、その後が圧巻だった。次打者の中村晃の2球目に二盗を成功させると、すかさず3球目には三盗を決めた。そして、中村晃がきっちりセンターへ打ち上げたのを見て、犠飛で本塁に生還。これぞまさしく「スピードスター」と拍手喝采がスタンドからそそがれた。
試合後はお立ち台を終えて、報道陣の囲み取材に応じた。マスク越しでもニコニコ笑顔が伝わってくるほどのハッピーオーラに満ちていた。
「ニール投手も前よりクイックが速くなっているのは頭に入れていて、その中でも足を上げて投げることがあるので、自分は準備をしていました」
この二盗、三盗が今季16個、17個目のスチールだった。今年のパ・リーグ盗塁王レースはし烈で、この時点で周東は西川遥輝(ファイターズ)を抜いて2位に浮上し、パ・リーグ盗塁王に立つ和田康士朗(マリーンズ)に1つ差に迫った。
「(盗塁王は)すっごい意識しています。他の誰より、僕が一番じゃないですか(笑)。ネットや新聞でロッテ戦と日本ハム戦は必ずチェックしています。ただ、この前遥輝さんから『高いレベルで競い合えたらいいね』と声を掛けてもらいましたし、とにかく僕は1つ1つを積み重ねていくだけです」
「今宮先輩にダメ出しばかりされていたけど……」
昨年、育成枠から支配下入りしてすい星のごとく現れると、球界随一ともいえる足の速さで魅了した。その一芸で日本代表入りまで果たし、侍ジャパンのプレミア12優勝に大きく貢献もした。
当然相手の警戒が強まった今季はシーズン初盗塁まで開幕31試合を要するなど、なかなか思うように走れなかった。
「次は投手がストレートを投げるんじゃないか、牽制が来るんじゃないかと色々考えすぎていました。今はシンプルに、いいスタートが切れれば行くということしか考えていません」
チームの首脳陣から何度も背中を押された。特に一塁ベースコーチャーも務める本多雄一内野守備走塁コーチは熱心だった。周東はホームの試合前の打撃練習は早い順番で打つ。それが終わると守備や走塁の練習時間となるが、外野の隅っこで本多コーチが投手役となりスタートを切る練習を繰り返し行った。そのおかげで今季4個目の盗塁成功あたりから完全に気持ちを吹っ切ることができた。
また、その取材の流れの中で、筆者が「守備も、1月の自主トレでは今宮(健太)先輩にダメ出しばかりされていたけど、最近安定したのでは?」と水を向けると、「試合出場を重ねる中でいろいろな打球を捕れているし、自信になっています」と目じりを下げた。
「もちろん、セカンドを守っている先輩方を見ていると、僕はまだまだ足りない。もっと安定性を求めないといけません。技術が足りないので」
そのように言葉を継いだところで、一時欠場も余儀なくされた右肩の状態を訊ねると「もう治ったといって過言ではありません」と胸を張ってみせた。