2時間近く経って指名されたのは……

　1巡目の指名が始まる。独立リーグからのドラフト指名では、2013年香川オリーブガイナーズから中日に指名された又吉克樹の2位が最高だ。それだけに上位指名はまずないと見られていたが、3位、4位と順位が下がってくるとともに、報道陣は球団の名前が呼ばれるたびに、選手にカメラを向けるようになる。

　しかし、なかなか名前が呼ばれない。そもそも独立リーグの選手はだれも指名されない。

　午後7時が近くなり、会場内に疲れたような空気が漂いだしたころになって、「広島東洋、行木俊、投手、徳島インディゴソックス」というアナウンス。右端に座っていた長身の行木がガッツポーズをして監督や社長と抱き合う。

　行木は横芝敬愛高校を出て2年目だが、1年目は故障で全く投げられず、今年もシーズン半ばまで登板がなかった。しかし夏以降に活躍して10試合3勝2敗、防御率1.28と好投した。しかしエースの戸田を差し置いて、行木が真っ先に指名されるとは。

　他の4人の選手たちも祝福する。行木は再び着席したが、その目はキラキラ輝いていた。2週間前に会った時に「NPB行き以外には考えられません」と言っていたことを思い出して、父親のように「よかったな」と思った。

本指名で他の選手の名前は呼ばれず

　しかしここからが長かった。今季は、新型コロナの影響で各球団は指名を絞るといわれていた。特に契約金や年俸が高い本指名は減るといわれていたが、まずロッテが5人で本指名を終了した。

　以後、「指名終了」というアナウンスが流れるたびに、選手や関係者が小さくため息をついた。

　他球団も次々と「指名終了」になって、ドラフトの本指名が終わった。行木のほかに徳島の選手の名前が呼ばれることはなかった。

　行木俊の単独取材が手短に行われる。NHKや民放のローカルニュースで行木の晴れやかな笑顔が流れるのだ。

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