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ドラフト前夜は眠れなかった…楽天・黒川史陽がプロになれたワケは“努力し続ける”才能
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2020/10/24 17:01
キャンプで特守を受ける黒川(左)。高校時代から「練習の虫」と呼ばれたその姿勢はプロ入り後も変わらない
初対面の佐々木朗希にも切り込む黒川
それともう1つ、黒川の大きな武器は、物怖じしない性格だ。どんな場所に飛び込んでも遠慮なく自分を出すことができる。智弁和歌山では1年生の初練習の日に、いきなり1人で先輩たちの元に歩み寄って一発ギャグを披露したという逸話もある。
高3の4月に行われたU18代表候補の合宿の際には、全国から有望選手が集まる中、自然とキャプテンのような立ち位置になっていた。合宿の後、黒川はこう話していた。
「いろんなチームのリーダーが集まる合宿で、その中でも一番先頭に立って、いろんなことを言ったり、いろんな選手とコミュニケーションを取ったり、自分のキャラを出せて、やりたいことができたのは自信になりました。僕はあんまり気を遣わないタイプで、誰とでもしゃべれるし、いろんなことを聞けるんで」
その合宿では初対面の佐々木朗希(ロッテ)にも切り込んだ。
「『実際何キロ投げたいん?』って聞いたら、『170キロ投げる』って言ったんで、ヤバイなと思いました(笑)」と衝撃の会話を明かした。
その会話のあと、実戦形式の練習で佐々木は高校生最速の163kmを出した。
高卒新人の初打席初打点は球団初
ふた回りほど年の離れた先輩もいるプロの世界では、さすがに1年目から遠慮なくというわけにはいかないだろうが、黒川に萎縮する様子はない。
開幕は二軍で迎えたが、イースタン・リーグでレギュラーとして試合に出続けて2割台後半の打率を残し、9月4日に一軍昇格。その日に7番セカンドで初出場初先発を果たした。
そして2回裏、いきなり無死満塁の場面でプロ初打席が巡ってきた。
楽天生命パーク宮城に駆けつけていた洋行さんは「彼の運はすごいなと。だてに甲子園5回行ってないなと思いました」と振り返る。
プロ初打席とは思えないどっしりとした佇まいで、オリックス・山岡の初球のボール球を見極めると、2球目をきっちりライトに運び、犠牲フライでプロ初打点を挙げた。高卒新人が、1年目に一軍初打席で打点を挙げたのは球団史上初だった。
4-3で勝利した試合後、本塁打を放った浅村栄斗とともに初のお立ち台に立った。浅村は、黒川が「目標としている選手。こういう選手になりたいなという選手を思い浮かべた時に、浅村選手が出てくる」と語っていた存在。その先輩の隣で、「浅村さんのホームランを見て、一生ついて行こうと思いました!」と叫び、球場を沸かせた。
今夏の和歌山独自大会中、黒川の後輩で今年のドラフト候補である細川凌平の評価をあるスカウトに尋ねると、こんな言葉が返ってきた。
「去年の黒川史陽が、いい伝統を残してくれていますよね。よー練習してたから、そういうのを細川たちが見習ってやっている。智弁和歌山にまた新しい伝統を作ったんだと思います」
黒川が高校時代に残したもの、そしてこれからプロで見せていく姿は、後輩たちの道しるべにもなる。