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【秋華賞】デアリングタクト、史上初の無敗三冠牝馬へ 「将来はアーモンドアイのように」桜花賞の裏側
posted2020/10/15 17:00
text by
江面弘也Koya Ezura
photograph by
Hochi/AFLO
Number1002号(2020年5月7日発売)掲載 ※肩書などすべて当時
4コーナーをまわったとき、デアリングタクトはまだうしろのほうだった。
(これでは、届きそうもないな……)
岡田牧雄は思った。なんとか5着に食いこんで、オークスの出走権を確保してくれればいい。
テレビは前を映している。先頭にはスマイルカナがいた。兄の岡田繁幸の所有馬だ。
「カナっ! 頑張れ!」
テレビに向かって叫んだ。
しかし、逃げて懸命に粘るスマイルカナに1番人気のレシステンシアが並びかけ、競りあい、すこし前にでた。そのときだった。外からデアリングタクトが追い込んでくる。「3着!」と思う間もなく前の2頭に迫ると、雨で重くなった芝の上を、バランスを崩すことも脚があがることもなく、一直線に突き抜けていった。
4月12日、デアリングタクトは無敗の3連勝で桜花賞馬になった。キャリア3戦めでの桜花賞優勝は'80年のハギノトップレディ以来、40年ぶりの快挙だった。
岡田の相馬眼が見抜いた、落札価格以上の運動神経。
岡田牧雄(岡田スタッド代表)がデアリングタクトをはじめて見たのは日本競走馬協会のセレクトセールだった。岡田は血統という先入観をもたないようにして、あくまでも馬本位で選んでいるのだが、デアリングタクトの第一印象は「ひょろっとして見栄えのしない馬」だったと言う。
「でも、歩かせると、飛節(後肢の中ほどの関節。人の足首やかかとにあたる部分)がやわらかくて、背中を器用に使って歩いていた。運動神経のいい馬なんですね」
落札価格はいまから思えば破格の1200万円。相馬眼の勝利である。祖母のデアリングハートは重賞3勝、桜花賞3着、NHKマイルC2着という活躍馬である。いい血統の馬なので、岡田が運営するクラブ法人(ノルマンディーサラブレッドレーシング)の所属馬にした。