Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
【秋華賞】デアリングタクト、史上初の無敗三冠牝馬へ 「将来はアーモンドアイのように」桜花賞の裏側
text by
江面弘也Koya Ezura
photograph byHochi/AFLO
posted2020/10/15 17:00
桜花賞の上がり3F36.6はメンバー中最速。4角12番手から一気に差し切った
はじめて馬を見たときの印象は……。
岡田とは対照的に、調教師の杉山晴紀は血統でデアリングタクトを選んだ。杉山厩舎には毎年1頭、ノルマンディーの馬が入る。'17年うまれの世代は4頭の候補がいたが、血統と写真を見て「即決」したと言う。
「父が新種牡馬のエピファネイアというのも魅力的でしたが、決め手になったのはやっぱりデアリングハートでした」
だが、はじめて馬を見たときの印象は「おとなしそうで、普通」だった。
「グッドルッキングホースではないんですが、ざっくりと芝向きだと思いました」
デアリングタクトが栗東トレセンの杉山厩舎にきたのは2歳の9月末。調教が進むうちに杉山の評価は高くなっていく。
「2歳の牝馬なのに、飼い葉はしっかり食べるし、素直で従順。手本のような馬です。ぼくも調教で乗っていますが、2歳であれほど安定している馬はめずらしい」
「トライアルを使わないで桜花賞に行きたい」
デビューは2歳の11月。騎手は松山弘平に頼んだ。「なんとなく馬に合っているかな」というのが理由だが、まさにぴったりだった。馬群のなかでもリズムを乱すこともなく、松山のゴーサインに素早く反応すると、あっさりと抜けだしてきた。
「結果として、松山騎手に合っていたんだと思います。このまま成績を残して、いいコンビになってもらえれば」
2戦めのエルフィンSは後方から追い込んで2着に4馬身の差をつけた。鞭も使わない大楽勝だった。そのレースぶりを見た岡田は狙いをオークスに定めた。そのためには桜花賞で5着以内をしっかりと確保する。まだ賞金面で微妙だから、チューリップ賞で3着以内にはいって、桜花賞の出走権をとっておきたかった。
ところが、杉山は「トライアルを使わないで桜花賞に行きたい」と言ってきた。
「新馬戦のあと疲れがあって馬の状態が落ちまして、1月に予定していたレースを使えなかったんです。仮にチューリップ賞を使ってもいい勝負ができると思いますが、そのあとがどうなるかわからないし、桜花賞に直行したほうがあきらかにいいパフォーマンスができると思ったんです。オーナーは賞金不足で出られないのを心配していたと思うんですが、ぼくも、ずっと他馬の動向を見ながら一喜一憂してました」
杉山の考えを理解した岡田は、桜花賞への直行を承諾する。
「理に適っているので、言うとおりにしました。若いのに、なかなかたいした調教師です。それだけ馬の潜在能力を感じていたんだと思うが、そのあたりは、わたしも馬をずっと見ていたからね」