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右肩脱臼に曲間違い…本田真凜を支えた“兄妹愛” 太一、望結、紗来もそれぞれの戦いへ
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byTakao Fujita
posted2020/10/14 17:00
東京選手権に出場した本田真凜(左)と望結。11月5日から山梨県で行われる東日本選手権で再び同じ舞台に立つ
「始めは、他の人の曲がかかったと思いました」
ところが、ハプニングは怪我だけで終わらなかった。フリーの本番、美しい薄紫色の衣装で氷に立つ。曲は昨季の継続で『ラ・ラ・ランド』。しかし違う曲が鳴り始め、真凜は驚いた顔をして、審判のところへ滑っていった。
「始めは、他の人の曲がかかったと思いました。でも『あ、自分の曲だ』と。3月に振り付けて以来、滑ってなかった曲でした」
新しいフリー用にステファン・ランビエルから振り付けてもらったものの、帰国後は手直しが出来ずに使用を見送り、昨季のフリーを継続することになっていた。CDの表面に『フリー』と書いてあったため、間違えて持参し、提出してしまったという。
本田コーチは急いで更衣室へと走ったが、女子更衣室には入れない。望結が更衣室に入ってCDを探してもらったが、時間は刻々と過ぎていった。真凜は言う。
「1分以内に滑らないと棄権になってしまうと審判団の方から言われて、もう間に合わない、覚悟を決めるしかないと思いました」
即興とは思えない、可憐な美しい舞
レフェリーに、間違えたCDのまま演技することを伝えると、「大丈夫?(演技)時間も大丈夫?」と聞かれた。
「もしショートの曲を提出していたら(短すぎて)もう滑れません。でもこれは4分10秒ちょっとの編曲になっていたなと思い出したので、これでやるしかない、大丈夫です、と返事しました」
スタートポジションが何処だったかも思い出せないほどの状況だったが、演技を開始。「ジャンプ7つ、スピン3つ、どこで入れよう」と必死に考えながら滑った。
「後半になってステップをちょっと思い出しましたが、ほとんどアドリブでした」
2本の3回転トウループを決めると、情感たっぷりに恋の切なさを演じる。即興とは思えない、可憐な美しさがこぼれ落ちるような舞だった。もともと、本番で自ら演技をアレンジして演じることも多く、曲を聴いて感じたままを演じるというのは、むしろ得意な面もあったのだろう。
「最後のポーズをとって『できた!』と思いました」