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「サラブレッドの堅実さ」鍵山優真と「無茶なほどの爆発力」佐藤駿、2人だけの公式戦詳報
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byYukihito Taguchi
posted2020/10/08 17:02
昨季の自己ベストから鍵山(左)は+16.60の287.21点、佐藤は-56.69の198.42点と明暗が分かれた
佐藤にしか分からない「勝負師の勘」
しかし力んだために途中で回転が止まってしまい、前向きに転倒。そのさいに「どうなったのか自分でも分からない」という着氷の仕方をして、左股関節を痛めてしまった。
「気持ちが空回りして、途中で開いてしまって、前から転んでしまいました。打った直後にけっこう痛くて、次のジャンプにも影響が出てしまいました」
後半のジャンプは、痛みのためにタイミングが合わせられずミスを連発し、納得のいかない演技で終わってしまった。
「優真を練習から見ていて調子がよいから、僕も頑張ろうと思ったけど、その気持ちがちょっと空回りしたかなと思います。怪我した所がかなり痛いので、しばらく4回転をやらずに身体を休めて、東日本選手権までには完ぺきな状態にしたいです」
得点としては、フリー120.52点、総合198.42点となり、自己ベストより50点以上も低いスコアだった。しかし今回は、得点そのものよりも、4回転ルッツを2本入れようと思ったこと自体が、佐藤の恐ろしさである。4回転のなかでも最高難度・最高得点である4回転ルッツは、筋力も体力も使う。それを4本目に、しかもアドリブで入れるというのは、ジャンプの申し子である佐藤にしか分からない「勝負師の勘」が働いたのだろう。
昨季も、ジュニアGPファイナルの大舞台で4回転ルッツを初成功させて、ジュニアの世界王者へと駆け上っている。他の選手にない、無茶といえるほどの爆発力が彼の成長をささえる一番の武器であることを示した。
世界歴代5位相当という高得点だった
一方、佐藤の演技のあと、鍵山は自分に集中した様子で演技を始めた。冒頭の4回転サルコウ、トウループをともに成功。さらに3本目となる4回転サルコウを降り、最後のトリプルアクセルでステップアウトしたこと以外は、パーフェクトの演技だった。
得点はフリー188.75点で、総合287.21点。国内大会のため参考記録ではあるが、ネイサン・チェン、羽生結弦、ビンセント・ゾウ、宇野昌磨に次ぐ、世界歴代5位相当という高得点だった。
「得点は、嬉しいといえば嬉しいですが、点数は意識していませんでした」と、その点数の価値をまだ受け止め切れていない様子で、小さく笑った。