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「天真爛漫なところが好きだ。おまえさんならきっとやれる」菊池雄星と原辰徳監督の知られざる絆
text by
木崎英夫Hideo Kizaki
photograph byKyodo News
posted2020/09/29 11:50
2010年1月「日本プロスポーツ大賞授賞式」でのプロ入り前の菊池雄星(左)と原辰徳監督。右はプロゴルファーの石川遼
なぜ、原監督は雄星を呼んだのか
それは第二次原政権の6年目、2011年5月終わりのことだった。交流戦で西武ドームにきた原監督は試合前の打撃練習中に自軍からトレードで移籍した星孝典捕手(現楽天二軍コーチ)の挨拶を受けた。帰り際、星は原監督から託された。「雄星君を呼んでほしい」。敵将の元へ急いだ菊池はそのときの心境をこうたどった。
「何で呼ばれたのだろうかと不安でした。だって、原さんからあのような言葉をかけていただけるなんて、夢にも思っていませんでしたから。プロ1年目(2010年)にコーチ陣にいた人との間でちょっとあって。僕を見る世間の目を気にするようになってしまった時期でしたから……。嬉しかったですね、本当に。原さんの言葉に救われたんです」
花巻東高から2009年のドラフト1位で西武に入団した菊池は、同年夏の甲子園で150キロを超える快速球で注目された。威圧的な投球で1年目からの活躍が期待されていたが、左肩痛を発症し二軍でのリハビリ調整に終始。そこで騒動に巻き込まれた。菊池は翌年に開幕一軍入りを果たしたが、その心は原監督の炯眼が見抜いていた。
隣り合わせになったのは2010年の授賞式
2人の接点は2010年の1月15日に都内のホテルで行われたテレビ朝日主催の「日本プロスポーツ大賞受賞式」で、前年に甲子園を沸かせた菊池とワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で2年連続の世界一を牽引した原氏は、記念写真の席で隣り合わせになった。そこで握手を交わした直後だった。笑顔の原氏から贈られた一言が、菊池の胸を射貫いた。
「ようこそ日本球界へ!」
ドラフトを前にして国内の全12球団に加えメジャー8球団とも面談を行った菊池に、「天秤にかける生意気なやり方」の声が周囲から漏れ出していた。18歳の心のひだに絡み付いた「うしろめたさ」に処方の一矢を放ったのも原氏であった。