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後悔の涙ではなかった…菊池雄星が明かした「高卒メジャー行きを封印した“あの日”」

posted2020/09/30 11:00

 
後悔の涙ではなかった…菊池雄星が明かした「高卒メジャー行きを封印した“あの日”」<Number Web> photograph by IWATE NIPPO/Kyodo News

花巻東高のエースは2009年メジャー行きを封印し、西武入団を決断した

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氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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IWATE NIPPO/Kyodo News

 10月26日に開催予定の2020年プロ野球ドラフト会議。コロナの影響でセンバツも夏の大会もなかった今年は「甲子園ヒーロー」がいない“特別なドラフト”になる。1カ月後に“その日”を控え、本誌がこれまで掲載した「プロ野球ドラフト会議」に関する記事のなかから人気があったものを特別にWebで公開する。【初出:Sports Graphic Number 963号/肩書などはすべて当時】

<2009年の秋、日米20球団と面談した高校3年生は、悩んだ末にアメリカ行きを断念。
多くの報道陣の前で涙を流し、「日本一のピッチャーになる」ことを志した。そして入団した西武を今季リーグ制覇に導き、夢が現実になる日も近づいてきた今、あの喧騒を振り返る。>

 優勝マジックを1として本拠地最終戦を迎えた9月29日、前日に登板を終えていた菊池雄星は、穏やかな表情でメットライフドームのバックネット裏上段にある応接室からスタンドを眺めていた。

「昨日よりお客さんの入りが早いですね。優勝が決まる日に投げたかった気持ちはありますけど、本気で優勝を目指した1年だったので、やっぱり『勝つ』っていいなぁ」

 この日に優勝は決まらなかったものの、プロ入り9年目にして初めてつかんだリーグチャンピオンが、菊池の野球史の中に深く刻まれたのは間違いない。

大騒動になった菊池の「告白」

 ドラフト当時の話を聞きたい。

 この日の取材テーマを伝えたのは前日の登板を終えて帰途につく駐車場でのことだった。“あの騒動”についても聞くつもりだと付け加えておくと、頭の中の記憶を一つひとつ呼び覚まし当時を振り返った。

「報道は二転三転していたんですよね」

 筒香嘉智、今宮健太など、のちのスターたちが顔をそろえた2009年のドラフト戦線を菊池が騒がせたのは、夏の甲子園が終わって間もなくの頃だった。甲子園で最速154kmを投げ込んだ左腕を、NPB球団の多くが「1位候補」に挙げていた。

「10球団以上が競合するかもしれない」との報道もある中、菊池は将来の活躍の場について、これまでの高校生と異なる選択肢を明らかにしたのだった。

 それは日本のプロ球団を経ずに、そのままアメリカへ渡ってメジャーリーガーを目指すというものだった。アマチュアのトップクラス、それも、甲子園を沸かせた高校球児の壮大なる夢の告白に、野球界は揺れに揺れた。

 無理もない。前年には社会人ナンバーワンピッチャーだった田澤純一がレッドソックス入りしていたからだ。田澤は「指名見送り願い」をNPBの各球団に送付する一方的な形で海を渡っていた。

 NPBの各球団は打つ手がなかった田澤の時と同じ轍を踏むわけにはいかない。菊池のメジャー挑戦は決定ではなかったから、騒ぎはより大きなものとなった。

【次ページ】 菊池がメジャーに興味をもった“きっかけ”とは

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