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内村航平「やっぱ、むずいな」 離れ技でミスも“1分間の鉄棒決戦”で五輪へ新たな一歩
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2020/09/27 08:00
内村は東京五輪までの試合を「実験」と表現する。本番に向けた「ピーキング」のスペシャリストにとってどんなミスも意義のある糧だ。
宮地秀享との国内トップ争いは見どころに
さまざまな思いが交錯するリスタート初戦にはなったが、試合の中で東京五輪への思いに、フレッシュな刺激が加わったことは好材料だ。
「あらためて体操は難しいと感じましたし、その中で頑張っている若い選手たちがすごく輝いて見えました。自分も負けじと五輪に出て、昔みたいな輝きを放てるようになりたいと、あらためて思いました」
別の収穫にも触れた。ブレットシュナイダーで落下しなかったことだ。
「試合をやる前にサブ会場で調整していたのですが、そこに宮地(秀享)選手が来て、『僕は最初にブレットシュナイダーを使った時に落ちました』と言われたんです。プレッシャーをかけられたけど僕は落ちなかったので、まあ、良かったかなと(笑)。前向きに捉えています」
そう言って笑みをうかべた。宮地は内村の前の班でI難度の「ミヤチ」を成功させるなど会心の演技を見せ、17年以降の世界選手権種目別鉄棒金メダルの点を上回る15.366点のハイスコアを出していた。内村にブレットシュナイダーの乱れがなければ、互角の勝負だっただろう。今後は2人による鉄棒の国内トップ争いも大きな見どころになっていくはずだ。
1分で今まで以上のことを表現しなければ
会見では、出身地である長崎のテレビ局から「長崎の人々へメッセージを」というリクエストも受けた。10年以上にわたって折々で内村の出る大会を取材し、地元への声を届けているメディアだ。
内村は「長崎というか、九州地方は今年、豪雨で大変な思いをしました」と切り出し、実家からスマートフォンに送られてきた写真で車が半分埋まっている様子を見て驚愕したというエピソードを明かした。
「僕が住んでいた時(15歳まで)にはこういう経験をしたことがなかった。本当に大変な思いをしているはずなので、何とか演技で元気づけたいという思いはあります。でも、なにせ鉄棒だけになると、6種目をやっていた時より映像が少なくなる。だからこそ失敗せず、良い演技を目指して、日本の皆さん、世界のファンに届けていきたい。長崎の方々に対しては、特にそう思っています。僕の演技時間は約1分ですが、1分で今まで表現してきたこと以上のことを表現しないといけないと思っています」
できたことも、できなかったことも含め、内村は今のすべてを1分間の演技に凝縮させた。新たな一歩を踏み出したからこその前向きなエネルギーがその目に宿っていた。
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