Jをめぐる冒険BACK NUMBER
Jを沸かせた“岡山劇場”の岡山一成は今何を? スペイン人女性監督からの指摘と絆、指導者のリアル
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byAtsushi Iio
posted2020/09/16 17:00
現役を引退し、指導者への道を歩み始めた岡山一成。その道は1年ほどなのに波乱万丈である。
「スペイン語は喋れますか?」
それなのに1年後、そのクラブに指導者として自身を売り込んだのだ。普通なら躊躇してしまいそうだが、この大胆さが岡山らしい。
すると、「スペイン語は喋れますか?」という返答が届いた。
鈴鹿アンリミテッドは新監督としてスペイン人女性のミラグロス・マルティネス――ミラ監督を招聘していた。通訳兼コーチとしての契約なら可能性があるというのだ。
「アンリミの監督がスペイン人女性になったことは知っていて、面白そうやなと思って連絡したんですけどね。さすがに嘘はつけないじゃないですか。それで断念して」
もう1年、解説の仕事を続けながら、空きが出るのを待つしかないか――。
そう覚悟を決めたとき、岡山の天性の武器が光る。
開幕1週間ほど前にチーム合流
現役時代、何度かサッカーの世界から離れかけたが、その度に次のクラブが見つかり、プレーを続けてきた。そんな“引きの強さ”がここでも発揮されたのだ。
「2月下旬にアンリミから連絡が来て、『通訳ができるアシスタントコーチが見つかったので、ヘッドコーチとフィジカルコーチを兼任してもらえませんか』って。もう、ふたつ返事で引き受けさせてもらいました」
とはいえ、チームに合流したのは'19年シーズン開幕の1週間ほど前。しかもJ2開幕の日には解説の仕事が入っていたため、その日の練習を休むというバタバタぶり。こうして念願の指導者の道をJFLのクラブからスタートさせる幸運に恵まれた岡山だったが、与えられた役割はすぐに半減した。
「フィジカルコーチは失格になりまして(苦笑)。僕、追い込むタイプやから、ミラの方針と合わなくて。そもそも僕とミラは正反対なんですよ。ミラはスペインの最先端の指導を学んでいて、UEFAのプロライセンスも持っている。一方、僕は叩き上げの軍曹みたいで暑苦しい(苦笑)。たぶん、ミラはインテリな右腕が欲しかったと思うんですよ。それなのに、僕は隣で『行けー!』とか叫んでいて」
そんな正反対のサッカー観が、シーズン序盤のある日、問題を引き起こす。
「選手たちの前で、ミラとぶつかっちゃったんです」