Jをめぐる冒険BACK NUMBER
Jを沸かせた“岡山劇場”の岡山一成は今何を? スペイン人女性監督からの指摘と絆、指導者のリアル
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byAtsushi Iio
posted2020/09/16 17:00
現役を引退し、指導者への道を歩み始めた岡山一成。その道は1年ほどなのに波乱万丈である。
「完全に僕が悪いんですよ」
紅白戦が終盤を迎えたときのことだ。アディショナルタイムで失点した試合の反省から、岡山は時間稼ぎをしてゲームを終わらせる練習をするように指示を出した。
それを見たミラ監督が「なんなの? これは私がやりたいこととは違う!」と指摘したのだ。
「『勝たなきゃ意味がないから、1回やっておこうよ』って言うたんです。ミラは受け入れてくれると思ったんですけど、ミラの考えとは違った。それで練習が止まってしまって。完全に僕が悪いんですよ。監督のやりたいサッカーをサポートするのがコーチの役目なのに、自分の考えを押し出してしまった。
そこからっすね、ミラとたくさん話をするようになったのは。そもそも僕はミラからいろいろと学びたかったし、逆に、日本の気候や日本人の性格、JFLの特徴については教えることができる。ミラもだんだん信頼してくれるようになって」
その後、攻撃面の指導はミラ監督、守備面は岡山と役割分担がなされ、コーチングスタッフの絆が深まっていく。
もっとも、チームは苦戦していた。
「ミラの考えは、攻めることが大前提なんですよ。システムは4-3-3で、『前の3人は戻ってくるな。そうすれば相手の4バックを釘付けにできるから』って。でも、アンリミは昇格したばかりだから、相手のほうが格上のことが多い。それで押し込まれて4-5-1みたいにさせられてしまう。ミラもストレスを抱えていたけれど、『守備のときは4-2-3-1に変えたほうが守りやすいんじゃない?』と僕から提案したりして」
「ミラから学んだのは、柔軟な姿勢」
ターニングポイントは9月に訪れた。流通経済大ドラゴンズ龍ケ崎、松江シティFCと残留を争うチームとの連戦に、ロングボールや時間稼ぎも辞さない泥臭いサッカーで連勝を飾るのだ。コーチングスタッフの間で徹底的に話し合った成果だった。これで勢いを取り戻した鈴鹿アンリミテッドは、16チーム中12位でシーズンを終えた。
「ミラから学んだのは、柔軟な姿勢ですね。本来、ミラがやりたいサッカーをやるには、育成から変えないとダメなんですよ。それくらいレベルの高いパスサッカー。でも、アンリミではできない。苦悩しながらも、ミラは割り切って、理想と現実を少しずつすり合わせていった。その姿勢は勉強になりました」
2年契約の1年目が終わる頃、岡山は翌年も鈴鹿アンリミテッドでミラ監督を支えるつもりでいた。
ところが、岡山のもとに心を揺さぶるオファーが届く。
指導者なら関心を持たないわけにはいかないオファーを出したのは、関東1部リーグに所属するVONDS市原だった。
(※関連記事より後編「“J5”監督挑戦、岡山一成『指導者って夢がある』 コロナ禍と雷の記憶、鬼木達の助言」もぜひご覧ください)
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