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愛棋家GK中村航輔が大いに語る、藤井聡太戦での渡辺明のプライド&三丸拡との『将棋ウォーズ』
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byKenji Iimura
posted2020/09/10 11:30
2017年の柏のファン感謝デーで、中村太地七段との公開対局と対談に臨んだ中村航輔。その将棋愛は本当にガチである。
藤井さんに対する渡辺さんの戦いぶり
最近の印象深い対局としては、藤井聡太が初タイトルとなる「棋聖」を獲得した際の一局を挙げてくれた。ただその対局で惹かれたのは、相手である渡辺明の戦いぶりの方だったと言う。
「渡辺さんに勝って、藤井さんがタイトルを取った時の対局ですね。でも自分は、この時の渡辺さんの戦いぶりがすごいと思ったんです。一度、矢倉で負けて、その同じ戦法をやり返した」
中村が話しているのは、棋聖戦の決着局となった第四局のことである。
先手の渡辺は、負ければ史上最年少でのタイトルホルダー誕生を許す注目の一局で、第二局で自身が負けた戦型である矢倉を選んだ。過去に負けた戦型を選択し、さらに途中まで同じ手順で戦いを進める姿勢で周囲を驚かせた。
「負けたら普通は変えるじゃないですか」
もちろん、短期間で修正を加えることで勝算を打ち出していたのは言うまでもないが、そこにトップ棋士としての意地とプライドを感じ、中村は痺れたという。
「負けたら普通は変えるじゃないですか。サッカーでいうと、同じフォーメーションで挑んでいったようなものですよね。例えば5バックで負けたら、次は同じ相手には4バックに変えてみようかって思いますよね。渡辺さん、それでもいくんだなと。結果は振るわなかったですけど、あれは渡辺さんがすごいなって思いましたよ」
負けた渡辺は棋聖を失冠したが、その直後には名人戦を制して名人位を獲得している。トップ棋士たちが繰り広げる頭脳戦と勝負師としての駆け引きは、アスリートである中村を魅了してやまないようだ。