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池江璃花子に奇跡を見た。アスリートの本能とパリへのワンストローク。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by東京都水泳協会/ベースボール・マガジン社
posted2020/09/06 20:00
復帰レースとなった東京都特別水泳大会、スタート時の池江。肩から上腕にかけてのラインに筋肉が戻っているのがはっきりとわかる。
体調を第一に、一つずつ前へ。
サプライズに満ちあふれる池江だが、優先順位が何であるかについては、本人とコーチングスタッフの中でしっかりと意思統一しているのも強みだろう。今は体調第一とするべき時期。加えて、新型コロナウイルス感染症のリスクには細心の注意を払う必要がある。そのため、現在のトレーニングスケジュールは、週4日練習で、そのうち1日はほぼリカバリー。ウエイトトレーニングは4日の中の1日にとどめ、しっかりと週3日の休息を確保している。これは6月から変わっていないという。
このため、筋肉量とスタミナの面ではスタート地点から少し進んだという状態だ。復帰レースでのスタートのリアクションタイムは、通常より0.1秒ほど遅い0.70秒。池江の言葉によれば、「自分的には今までと同じようなスタートをやってるつもりなんですけど、やっぱり脚力が戻っていないので、どうしても瞬発力が足りない」。また、ラスト15メートルではきつさを感じたとも語っていた。これらの点を踏まえて西崎コーチは「体調を見ながらですが、まずは体重を戻して、一つずつトレーニングの強度を上げていくことでクリアしていきたいと考えています」と言う。復帰初戦の快泳にざわつきがちなムードを助長しないように、慎重に言葉を選んでいる様子が伝わる。
6月下旬の泳ぎは衝撃だった。
緊急事態宣言が解除された後の6月下旬。ナンバー1007号のインタビューのため、日大水泳部のプールを訪ね、十分に距離を取ったエリアから練習を見学する機会があった。
実は、そのときのタイムトライアルでの泳ぎがこちらの先入観を見事に吹っ飛ばしてしまうほど速かったため、東京都特別大会での泳ぎはある程度想像のつくものではあった。体はまだ細いが、6月のインタビューでは「体重は一番減ったときがマイナス15キロくらいで、今はそこから5キロ戻って50キロ近くです」と話していた。それから2カ月。今回は6月よりももう少し筋肉がついている様子が見て取れた。特に肩から上腕にかけてのラインに厚みが出ている感じだ。