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天才司令塔ピルロが“仮免”でユーベ監督。セリエA10連覇&CL制覇へ模範はジダン。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/09/03 07:00
ユーべの監督になった名司令塔ピルロ。クリスティアーノ・ロナウドら名手を束ね、セリエA10連覇の偉業に挑む。
“仮免”でユーべ監督は無謀?
2017年秋にNYシティで現役引退した後、誰かの下でコーチ修行を積んだわけでも、下位カテゴリーの地方クラブで下積みを重ねたわけでもない。若手指導者の多くがキャリアを始める育成年代を率いた経験すらない。
最高峰ライセンスである「UEFA Pro」の講習は受けているが、ピルロは9月中旬の論文提出と10月の認定試験を控える、いわば“仮免”の身だ。いきなり欧州のトップクラブのベンチを任せるには荷が重すぎる、と見られても無理からぬ話だろう。
『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙のアンケートでは、「あまりに無謀」として就任への否定的意見が73%を超え、賛成層を大幅に上回った。別アンケートでは、ピルロを新監督に据えたクラブ上層部の人選に対し「リスキーな賭けだ」と見なす層が76.8%にも上った。
「つねにボールを持ち、すぐ取り返す」
そんな外野の声をよそに黙々と現場の仕事をこなすピルロは、キャンプ最初の会見で自らが望むチームのコンセプトを述べている。
「つねにボールを持とうとすること。もしボールを失っても、すぐさま取り返しにいくこと。この2つを徹底することは、チームのメンタル面を形成する上で大きな役割があると考えている。昨季のユーベに見えなかったプレーへの熱を復活させる」
ピルロは、他にも特定のフォーメーションに固執しない柔軟な戦術運用や、昨季途中までウディネーゼを率い実務経験のあるクラブOBのイゴール・トゥードルを副監督として自ら指名したこと、そして戦力の若返りを考えていること等をこんこんと説いた。
現役時代と変わらぬ、低いボソボソとした声だが、歴戦の猛者だけが備える静かな迫力と説得力は感じられた。